制作業はコストでしかない

Web サイトを作るのは楽しいですし、たまたま作れる人が少なかったことから web デザイナーのキャリアをスタートしたのが 20 年ほど前。同じように作ることの楽しさからキャリアを始め、作れるスキルを『商材』として頑張っている方はいると思います。

World Wide Web に関わるデザインは今でも好きですし、個人で嗜む程度ですがコーディングも楽しかったりします。作ることの楽しさはとても共感できますが、残念ながら『作れる』だけだと価格競争に巻き込まれる恐れがあります。

Web に詳しい方であれば、web サイトひとつ作るにしても多大な知識とスキルが必要なのは分かります。ノーコードで表現力の高い web サイトが作れるとはいえ、ノーコードだからノースキルで済むわけではありません。時間と労力が必要なのは同業者であれば分かることですが、クライアントや事業主の視点だと少し見え方が違います。

高いスキルと知識が必要だったとしても『何かを作る』ことだけを売りにしている間は、クライアントや事業主からは単なるコストに見えてしまいます。業務用品を購入したり設備投資をしているのと変わりないので、強いコダワリがない限り、彼らが見るのは価格だけです。

つまり「web サイトが作れる」だけをアピールにしている間は、選ぶ側からすると「コストを抑えれるのは何処か」になりがちです。「メンテナンス性が高い CSS が書けます」「表現力が高い JavaScript 実装ができます」も同様で、その仕事ができるだけだと、コストが抑えられる別の方を選ぶでしょう。

Web サイトを作るスキルは意味がない、お金にならないと言っているわけではありません。重要なのは Web サイトを作る意味、自分が web サイトを作る意味を相手に分かるように伝えることです。

なぜ作りたいのか掘り下げてみる

Web サイトを作りたいと思う理由は何でしょうか。例えば下記のような理由が考えられます。理由が複数の場合もありますし、他にもたくさんあると思います。

  • お客様に喜んでもらう
  • ビジネスに貢献したい
  • 良いデザインを作りたい
  • デザインの価値を伝えたい
  • お金を稼ぎたい
  • 賞をとりたい(注目されたい)

何が理由でも良いと思っていますが、それぞれ「Why(なぜ)、What(何を)、How(どうやって)」を何度も問うべきです。その問いの答えが、単なるコストとして見られないためのヒントになります。

例えば「お客様に喜んでもらう」が作る理由だとします。喜んでもらうには何が必要だと思いますか? ただ、web サイトがあるだけも喜んでもらえると思いますか?

良いデザインの web サイトがあると喜んでもらえると考えるかもしれませんが、お客様が喜ぶ『良さ』とは何でしょうか? その方が誰かに自慢できることが『良さ』でしょうか。

もし『誰かに自慢できる web サイト』を『良さ』であり『価値』と捉えるなら、たくさんのアワードを獲得したことがアピールポイントになりますし、メディア掲載も強みになるかもしれません。「あの人に作ってもらった」と言われるようパーソナルブランディングに励むのも手段です。

誰かに自慢したいと思うお客様は、ただ web サイトが作れる人を選ばないでしょうし、自慢するためにコストをかけたほうが良いと考える方もいます。その方にとって「自慢ができる」という価値に対して対価を得られることが重要なので、単なる制作コストとして web サイトを捉えることはないはずです。

価値から逆算する

今回あえて「誰かに自慢できる web サイト」を例にしました。そんな理由は良くない。ユーザーのことを考えたサイトを作るべきと考える人は少なくないはずです。私もそれは正しいと思いますが、あるべき論を説教しているだけだとコミュニケーションの溝は深まる一方です ... 考え方を変えることが仕事ではない場合がほとんどですし ...。

クライアントワークでも事業会社内で働くデザイナーでも、相手が求めている『価値』は何か深掘りすることが次の一手を考える上で重要になります。単に言われたことを作るだけであれば、単なる制作コストなので賃金が上がることはありません。作った先に何があるのか / 相手は何を得ようとしているのか理解することで、web サイトという制作物に対して価値を添えることができます。

価値の姿・形は様々です。
もし「お客様に喜んでもらう」には、売上に貢献することが重要と捉えるのであれば、web サイトによってどれだけ売上が変わるのかといった定量データも添えたほうが、制作はコストではなく投資と捉えやすくなります。

Web サイトは何か価値を得るための手段でしかありませんし、価値が不明確なまま手段だけ提供すると価格競争に巻き込まれます。コスト抑えて早く作り上げることもひとつの価値なので否定はできませんが、それ以外でこの仕事を続けるのであれば「自分が提供したい価値って何だろう?」という問いに対して解像度の高い答えを導き出してみてください。