IT (Information Technology) はみなさんにとってどういった意味をもつ言葉でしょうか。効率的に情報を行き来させる技術の総称と説明することが出来ます。「IT革命」という言葉のようにバズワード化してしまった部分もあるので、逆に意味が分からない怪しい領域に見られている可能性もなくはないでしょう。未だに IT 業界と呼ばれるところはどうも別世界に見られているような印象もあります。

技術を見えなくする

技術という言葉があるので確かに技術的なことではありますが、人に使ってもらうものを作るために技術だけで簡潔した例は今までありません。今のケータイ・インターネットの火付け役になった i-mode にせよ、新しいゲームプレーを提案した Wii にせよ、最新の技術を使ったわけでもなければ、ほとんどの方が技術をきちんと理解して利用しているわけではないです。技術中心ではなく、人を注意深く観察した上で、それを解決するにはどういった技術が必要だろうと考えた結果に出来上がったもののようにみえます。

本当の意味で普及するものというのは技術は「見えない」存在になっているのかなと思います。Google でもそうです。アルゴリズムをきちんと理解している方はほとんどいないですし、どのように検索ボットがサイトをインデックスして検索クエリーを引き出すことは分からないです。仕組みが分からなくても人は検索するなら Google にアクセスしますし、欲しい情報が見つかるかもしれないと期待して訪れるわけです。以前 Google のデザインガイドラインを紹介したように、非常に複雑な技術を見えなくするために、使ってもらう人へのケアや観察が不可欠なわけです。

たとえ言葉に技術が入っている IT にしろ、技術中心ではなく人の生活をよりよくするためのソリューションを提供するために適切な技術を提案出来るようにならなければいけません。よりよくするというのは一概に効率化や合理化という言葉に入れ替えることは難しいです。よく仕事やコミュニケーションで使われているアプリケーションを見てもまだまだ技術中心で作られているものは多いです。しかも、その技術に人間が合わせるかたちで使うものも少なくありません。技術と人間の関係は逆でなければいけません。人間に技術が合わせないと。

技術以外が今必要とされている

これは自分も含まれているといえますが、IT関連の仕事をしている方や、IT部署にいる方は技術やエンジニアリングに偏り過ぎていて、社会科学に注目している方が少ないのが現状です。ここでいう社会科学とは人類学、社会学、心理学のような分野を指します。現状、そういった知識を IT 部署や技術者に求められていない、もしくは雇用する際にチェックする点にはなっていないのかもしれません。しかし Web と人間の距離がますます近づいている現在において、人間の行動や考えを無視して技術中心で物事を考えるのにも限界があるように思えます。

とはいうものの悲観的なことばかりでもありません。プログラマーやデザイナーにお会いするときにいつも感じることですが、彼等は作ろうと思えば作れないものはほとんどないと言って良いくらいのスキルが備わっています。これは東京だけのことではなく、ときどき首都圏外でセミナーをして来場者とお話をするときもそう感じます。必要な技術とそれを補助するためのデザイン力も既にあるように思えます。手を動かして組み立てていくのは彼等の仕事ですが、利用者とのコミュニケーションがなければ作る目的やコンセプトも定まりません。それはクライアントと会話することもひとつですし、大きめの会社では部署間のコミュニケーションも含まれているでしょう。

誰でも Web へアクセス出来るようになったことで情報が何処からでも入手出来るようになっただけでなく、人間関係とそれを取り囲む環境の早さ、距離感、そして数は変わってきました。世界は本当にフラット化してきているわけですが、会社の組織体制や会社間のやりとりが未だに従来の階層式になっているケースも少なくありません。ずっと階層式の組織のままでフラット化する道具を使ってもいずれは矛盾が生じてしまうような気がします。人の生活をよりよくするための道具を作りだす能力をもっている IT 関連の方達の力を最大限に発揮するにはフラットな関係で彼等とコミュニーションをしたりサポートする必要もあると思います。

お互いがお互いを必要としている

組織自体は現状のまま階層式で良いのかもしれません。それより重要なのは個人がオープンでいることなのでしょう。

技術があるからといって超能力者ではありません。依頼人がよりよい道具を作ってほしいと求めているのと同じように、作っている側もどういったものを求められているのか聞き出したい、見つけ出したいという思いがたくさんあります。それは数値や仕様書では見えないものも多いわけで、どうしてもコミュニーションが必要になってきます。依頼人と作り手という言葉では足りない深いかかわりあいが生まれてはじめて作る目的がはっきり見えることもあるでしょう。

社会がどんなに『IT化』しても人間同士のインタラクションを消す事は出来ないです。それゆえ人へのケアというのはますます重要になってきますし、技術以外からの観点で IT をみる必要もあるのではないでしょうか。