機械化の真の脅威は私たちデザイナーの狭い視野

機械学習や人工知能の存在が「デザイナーの仕事とは何か?」「クリエイティブとは何か?」という疑問を投げかけていると思っていて、それらについて考える機会をつくっています。

2017年10月14日に CSS Nite in HIROSHIMA, Vol.10 が開催されました。最近は次の日から使える実践的な内容を話すことが多かったですが、今回はほんの少し未来の話をということで「既に来ている機械化の波とデザイナーができること 」というタイトルにしました。同名の記事を半年前に書きましたが、今回はそれを拡張した内容。機械化は脅威ではなく、デザイナーの可能性を広げるものであると紹介しました。

デザイナーは変わり続けている

機械学習・人工知能は当分先の話と思っている方は少なくありません。しかし、Adobe Stock の絞り込み検索に機械学習が活用されているなど、デザイナーの仕事現場の中に既にある技術だったりします。脅威と言うより、私たちの仕事をどんどん楽にしていることは忘れてはならない視点です。

歴史を振り返ると、デザイナーはテクノロジーの進化に合わせて働き方を変えてきています。15世紀、グーテンベルクによる金属活字を用いた活版印刷が発明されて、多くの人が印刷物を手にするようになりました。これにより、手作りで本を作っていた職人が少なくなりましたが、印刷技術を活用した表現者がたくさん現れました。

1984年に Macintosh が生まれて以来、Desktop Publishing、つまり DTP が一気に広がりました。手作業をしていた人たちの行き場がなくなりましたが、パソコンを活用した表現者が生まれましたし、デザイナーの仕事の幅も大きく変わりました。当時は「パソコンでデザインをするのはデザインではない」と考えていた人たちがいましたが、今はパソコンはデザイナーにとって欠かせない道具になりました。

コンピュータを使ったデザインは、電子レンジで料理しているようなものミルトン・グラサーの言葉。
同意できるところはあるものの、パソコンはデザインの可能性を広げています。

私が web デザインを始めた頃は、手書きで HTML を組むのが正しい姿でありツールは頼れないと考える方もいました。しかし、今はひとつひとつ手書きする人はほとんどいませんし、ホームページビルダーの性能も随分良くなっています。私たちが考える「当たり前」「普遍的」は些細なものであり、短期的な視点で見ていることが多いわけです。

機械学習・人工知能のような新しい技術を「脅威」と感じるのは仕方ないかもしれません。理解できないものには最初は拒否反応を示すものです。しかし「こんなものを使っているのはデザインではない」「これはデザイナーの仕事ではない」と突き放してしまうことは避けなければいけません。課題を発見し、解決するというデザインの意味はこれからも変わらないですが、その手段は昔も今もこれからも変わり続けます。

パソコンの前に座ってデザインをするというお馴染みの姿も、20〜30年ほどの歴史しかないわけです。ここ 1 年ほど iPad Pro を積極的に活用しているのも、今までのデザイナーの姿が変わるかもしれないという予感があるからです。

時代と共にアップグレード

Web (web ブラウザで観覧する web)はもう成熟期に入っています。90年代は真っさらなキャンバスの上を思うがままに描くような自由がありましたが、今はビジネスに直接的な貢献が求められるまで成長しました。パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットとアクセスする手段が増えたことで、利用者が爆発的に増えたと同時に、守らなければならないルールも増えていきました。 アプリの UI デザインにも同じようなことが言えます

個人的にそれは悪いこととは思っていませんし、昔のほうが良かったと懐かしむこともありません。たくさんの人が触れるものを作っていること、ただ作るだけではない責任が課せられたことは素晴らしいことです。だからこそ、デザイナーは「ただ良いものを作れば良い」という殻に閉じ篭っていて良いのかと疑問に感じます。

ビジネスに貢献しなけばならない(そうなるよう周りからも期待されている)中、『クリエイティブの山』にひとり篭って数日何も見えない状態を続けている場合ではありません。多少なりともデザインが説明できるようにならければいけませんし、デザインのブラックボックス化は極力避けなければ、他の方達との協働が難しくなります。

以下のようなスキルを磨かなければ、機械化の波が来る前に web、アプリのデザインをするのがどんどん難しくなっていきます。

  • 様々なスクリーンサイズに耐えられるデザイン
  • もしもを考慮した柔軟性・拡張性のあるデザイン
  • ひとりのデザイナーに依存しないシステム化
  • 感覚だけに頼らない論理的に説明できる能力

特に「話せる能力」は、デザイナーの仕事現場が劇的に変わったとしても必要になるはずです。デザイナーの中には「作る」ほうに偏り過ぎていて、うまく言葉で伝えられない人がいます。「作れる」だけと、「作れて話せる」とでは大きな違いがあります。機械によって作れる範囲がますます広がるわけですから、その差は大きくなるでしょう。

まとめ

私は機械学習や人工知能がデザイナーの脅威になるのかどうかという議論には興味がありません。ただ、それらの存在が「デザイナーの仕事とは何か?」「クリエイティブとは何か?」という疑問を投げかけていると思っていて、それらについて考える機会をつくっています。 その答えは分かりませんが、「こんなことしてみよう」と挑戦する機会は減らさないようにしています。それは従来のデザイナーらしからなぬ姿であったとしても気にすることはないと思います。

CSS Nite in HIROSHIMA セッション表紙

筆者について

長谷川恭久

写真:長谷川恭久Webやアプリに関わる様々な話題を取り上げた講演やワークショップをおこなっています。日本各地で講演や社内勉強会を 100 回以上の経験しています。
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