変わりゆく利用者行動と情報の流れ
縮小する Search & Find
Google 以後の Web 利用は「Search & Find(検索して見つける)」が根底にありました。情報を見つけるために、キーワードを入力して検索したり、ディレクトリを掘り下げて目的の情報へたどり着くという行動です。
今や『当たり前』となった利用者行動ですが、Web の黎明期からそうだったわけではありません。90年代は、検索するといっても、欲しい情報が見つかる検索エンジンはなく、使わないほうが良いという考えもありました。そうしたなか、Google という優秀なアルゴリズムを実装した検索エンジンが登場したことで、広大な Web の中から情報を探し出すことが出来るようになりました。
このように技術が『当たり前』を作りだすことがあります。私たちの行動や思考は、技術に大きく左右されることがあるわけです。Google のような検索エンジンが登場したことで、Search & Find という行動が助長されたといえるでしょう。このように、技術に影響されるのは私たちの行動だけではありません。広告もマーケティングもすべてそうです。
当然デザインも技術に影響されていて、Search & Find の Web に最適化するために「いかに見つけてもらうか」「訪問時にどう見せるか」を考えて設計するようになりました。
しかし、この『大前提』がモバイルによって大きく変わり始めています。もう変わってしまったと言ったほうが正しいのかもしれません。モバイル(特にタッチデバイス)の普及が今までの前提をぬぐい去り、新しいルールを作り出そうとしています。
検索という技術が Search & Find という利用者行動を生み出したように、モバイルという名の技術が、新たな利用者行動を作り出そうとしています。
検索をしない利用者達
人々がモバイル中心で Web を利用し始めているからといって、いきなり Search & Find の利用者行動がなくなるということはありません。Google の調査によれば、74%がスマートフォンでも検索していると応えてます。しかし、SurveyMonkey の調査によると、61.4% の方がスマートフォンでの検索は難しいと不満を抱えていますし、9.6% は検索すらしない人もいるそうです。
Search & Find の利用者行動がなくならないにしても、唯一無二の Web との関わり方ではなく、あるセグメントに対するアプローチになるのかもしれません。
ではなぜモバイルでは検索をしなくて済むのでしょうか。幾つかの可能性が考えられます。
- ホーム画面にあるアプリからのアクセスのほうが手軽
- ソーシャルメディアやパーソナライズされたニュースで情報収集できる
- Web の入り口が、Web ブラウザからアプリへ移行している
モバイルにある人々の行動をどう名付ければ良いのか分かりませんが、少なくとも Search & Find とは別のものが生まれています。今までとは異なる利用者行動は、Search & Find のときと同じようなビジネスモデルやデザインは通用しない可能性があります。先月メッセージとカードUI のアイデアを紹介しましたが、この大きな変化に対してどのようなデザインが必要なのかを考えたかったという背景があります。
今、ビジネスにしてもデザインにしても「これ!」と呼べるものはない混沌とした状況です。しかし、2013〜2014 年にあった大企業の買収をみると、新たな利用者行動に何かをしようとしているのが分かります。
模索をはじめる大企業
パソコン中心で成長してきた企業の多くは古いメディア媒体から受け継いだ広告モデルがほとんど。バナー広告を少しでも大きく、少しでも目立つところに置くということが重要視されていましたが、Search & Find をせず、パソコンのような広いスペースがないモバイルでは、従来のようなバナー広告はリーチしないかもしれません(今のところ効果はありますが)。
先月 WhatsApp を買収した Facebook は、メッセージアプリで広告を出さないと応えています。Facebook のモバイル広告は右肩上がりで増え続けていますが、露骨なバナー広告は一切ありませんし、今後も出さないでしょう。従来のようなバナー広告は今の利用者行動には合わないという考えからでしょうし、別の収益モデルも模索しているはずです。
興味深いことに WhatsApp は、そのヒントを与えてくれます。WhatsApp は、「広告を載せない理由」という記事をトップページに掲載してまで従来の広告を否定したサービス。ではどうやってビジネスが成り立っているのかというと、WhatsApp ユーザーからの支払われている1ドルの年会費を収入源にしています(最初の1年は無料)。他のメッセージサービスの多くが広告モデルを採用しているなか、別のかたちで運営している意味でユニークなサービスです。
モバイルだけを見れば、Facebook も無視できないユーザー規模をもつ WhatsApp ですが、広告モデル以外で運営を続けるという意味で、今後の Facebook の舵取りに大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
Facebook と同様、従来の広告以外の収益モデルを模索しているかのように見えるのが米 Yahoo!。昨年 Tumblr を買収したのは記憶に新しいですが、Tumblr はバナー広告ではなく、ネイティブ広告のようなものを通じてユーザーとの接点を築いています。過去 1 年の Yahoo! の買収を振り返ると、コンテンツ/メディアに触れるタッチポイントを増やして、そこから企業からのユーザーへのアプローチを変えていこうという思惑が見え隠れします。
モバイルによって変わり始めている利用者の行動。それに合わせるかのように模索をはじめた広告モデル。次に広告や企業からのメッセージをどのように配信し、どのように見せるかという課題も残されています。
情報を扱う人としての課題
広告は「自分は、こんなものが欲しかったのか」という驚きと気付きを与えてくれることがあります。すべてがパーソナライズ化されて、自分にとって都合がよくない情報を簡単に消すことができる今の時代。生温くなった情報の流れに、ちょっとした刺激を広告は提供できるかもしれませんが、従来の Web 広告は、今の時代に合わない、壊れたデザインといっても良いと思います。
その要因のひとつが、現状の Web 広告は、従来の技術と人間行動を基に作られているというのがあります。モバイルという技術を手にする Search & Find ではない人々が増え続けている現在。技術が変われば、人と情報との関わりも変わります。新しい『当たり前』が生まれようとしています。情報のあり方は変わるということは、それをどうパッケージングして配信するのかという、デザイン(設計)を考え直さなければならないということだと思います。
今はアプリでもサイトでも ページからメッセージへ移行しはじめています。文脈を読み取るという動きも活発になってきています。これらはデザインの世界でおこっている、Search & Find 以外の人々へアプローチするための手段の一部に過ぎません。今回は広告について少し触れながら書いてみましたが、デザインのヒントは他業界での出来事の中に隠れているのかもしれません。