新年の抱負がなくても大丈夫

自分にとって意味があること。それがたとえ現状維持であっても、十分に価値があると思います。

新年の抱負がなくても大丈夫

新年の抱負として、生産性向上のための意欲的な目標を掲げることがあります。例えば、「50冊の本を読む」や「新しい言語を習得する」といった目標があります。こうした目標を立てることで、充実した毎日を送れる人もいますが、自分はかなり前から目標を立てることをやめました。
むしろ自己改善のためにそうした目標を立てる必要性に疑問を感じることもあります。

なぜ、自己改善は「もっと何かをする」という活動に結びついてしまうのでしょうか。改善が必要な分野を特定し、測定可能な目標を設定し、詳細な行動計画を立てる――こうした枠組みは、本来の興味を明確な成果を求める構造化された活動に変えてしまいます。たとえば、読書は50冊という数字との競争になり、学習は修了証の収集へと変わります。これがゲーム感覚で楽しむ工夫になる場合もありますが、読書の質――つまり本との関係を深める活動――は、「どれだけ多くの情報をインプットしたか」という量的な視点にすり替わってしまいます。

「もっと何かしたほうが良い」という思考は、「今のままでは不十分」という感覚を永続的に生み出します。今日という日は、ただ明日への改善のための通過点となり、達成は次の目標に向かうための短い休憩にすぎなくなります。自己改善や自己啓発が常に「もっと何かする」という生産的な活動と結びつくのは、私たちの心の奥底にある「今のままでは不十分」という心理に深く訴えかけているからなのかもしれません。

そのため、本当は現状に満足しているにもかかわらず、「もっと何かしなければいけない」という不安を感じる人もいるのではないでしょうか。かつての私もその不安を抱えていました。けど、今では「何を改善すべきか」ではなく、「何に意味を感じているか」を考えるようにしています。生産的な活動だけを成長の唯一の道と捉えるのではなく、たとえ周りから見て無意味に思えることでも、自分の中から自然と好奇心が湧くものに目を向けるようにしています。

現状維持という言葉も、場合によってはネガティブに聞こえますが、とても大事なことだと思います。人間関係、健康、安定性など、すでに築き上げたものを維持することには、継続的な努力が不可欠です。今のままで「十分である」と認めることは「もっと何かしなければいけない」という不安から解放されるだけでなく、より本質的な成長の余地を生み出すこともあります。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。