企業の透明化がブランドを高める理由
デザインに関わる様々な物事を再考しなければならない時期にきていると考え、2008年くらいから Web デザインとそれをとりまく考えや手法を『現在・未来』と照らし合わせながら記事にしています。数年前から気になっているのが、測定の仕方について。ページビューは死んだと言われて久しいですが、未だにページビューを軸にした広告モデルが根強く残っています。また、Like やフォロー数といった近年の『ソーシャル指数』にしても同様で、基本的に「どれだけ露出したか」が価値に直結しているのが現状です。
企業が伝えたいイメージを様々な媒体を活用し、何処にでもある状態をつくることで、顧客にイメージを植え付ける
「どれだけ露出したのか」「どれくらい人は時間を過ごしたのか」を大きな価値にしているのがブランディング。企業が伝えたい世界観をひとりでも多くの方に伝えるために、CM、雑誌広告、ビルボードなどを活用します。オフラインの世界では厳密な測定が出来ないとはいえ、人の頭には伝えたイメージが残っている場合があります。企業や製品名をみると、広告塔になっている芸能人や、テーマソングが脳裏に浮かんでくるのは、オフラインの世界では『刷り込み発信』が上手く機能しているからなのでしょう。
未だに Web でもページビュー、Like数などが重要視されている理由のひとつは、オフラインにおけるブランドの露出という価値観と重ねやすいからなのかもしれません。作ったイメージ(Webサイト/広告/ランディングページ)がどれだけ見られたか、そしてどれくらいページに滞在したかが成功の基準になっている場合があります。
オフラインでは露出したかどうかは、ひとつの成功の指数として成立しているものの、それがオンラインの世界でも通用するかといったらそうとは言えません。むしろ、長く時間を過ごしたかどうかより、どれだけ早くサイトから離脱したのかのほうが重要ということもあります。
以前も紹介したことがあるモバイル版 Volkswagen の Web サイト。いろいろな情報へアクセス出来るものの、「ディーラーを捜す」「欲しい車を見つける」といった利用者のニーズをストレートに伝えています。このサイトの利用者は長くサイトに滞在せず、見つけた情報を早く見つけて次の行動へ移るでしょう。
Amazonのようなショッピングサイトも同じです。1ページでも短く、1秒でもはやく欲しい製品を見つけてチェックアウトが出来るような工夫が随所にあります。
滞在した時間が少ない、ブランドの世界観を伝えるイメージがないから、ブランドを伝えることが出来ないわけではありません。むしろ、利用者がすぐにサイトから離脱したという経緯そのものがブランドになっています。利用者は「これは簡単だった」「すぐに見つかった」「自分のニーズに応えてくれた」という体験を企業と結びつけるようになるでしょう。
オフラインにおけるブランドの伝え方は、架空のキャラクターを中心とした世界観を疑似体験してもらうことで、ブランドを知ってもらうという手法をとっていました。人の直接的な体験ではないので、イメージを何度も刷り込む必要がありますし、どれだけ露出したのか、時間を過ごしたのかが重要になってきます。しかし、オンラインで操作の主導権は基本的に利用者にあります。よって、利用者は刷り込みを拒否することができますし、自分で欲しい情報を得る傾向にあることから実体験の連続です。もちろん、疑似体験を発信することで一時的に利用者を楽しませることは出来ますが、オンラインでは実体験が記憶に残ることが多いです。
企業が提供したい価値観を Web サイトに反映させ、そこでの実体験がブランドとしてリンクする。
オンラインでは企業が透明になることがブランド向上につながるのは、疑似体験ではなく、実体験を通して世界観を伝えることが出来るからです。特にモバイルでは Web サイトが利用者のニーズに単刀直入に応えたサイトが多いのはこのためですし、PC 向けサイトでも利用者の邪魔をしないサイトが受け入れられています。 Web サイト制作者がよく考えるユーザビリティやファインダビリティは、企業サイトだけでなく企業のブランドにも大きく関わっているといえます。
オンラインにおけるブランドの指数はページ数、Like数、滞在時間ではなく、わずかな時間でどのような価値を提供できたかにかかっているといえます。
オンラインにおける企業のブランドイメージを向上させたいのであれば、オフラインでの手法を棚の上に置いて、まずは利用者の価値をどう向上させるかを考えるところから始まります。多くの人に擬似的なイメージを伝える前に、ひとりひとりに何を提供出来るのかという小さな視点がオンラインでは重要といえるでしょう。