Paul Randとデザインと私
ポール・ランドの名前を知らなくても、彼のデザインは私たちの身の回りにたくさんあります。IBM, Apple, ABC など数多くのコーポレートアイデンティティを手がけたデザイナーです。1996年に他界した彼ですが、YouTubeに晩年のインタビューが配信されています。30分と長いインタビューですが一見の価値あり。彼のキャリアを振り返りながら、彼が辿り着いたデザインの捉え方を知ることができます。
いきなり「グラフィックデザイナーはそれほど重要な存在ではない」という言葉からインタビューがスタート。しかし、それは見た目を良くするためだけのグラフィックデザインを指しており、デザインには存在意義があるとしています。例えば、ビジネスを理解している良いデザイナーであれば、見た目を良くするだけでなく、記憶に残りやすいデザインがつくれる。人々の生活を良くするためにデザイナーは存在していると語っています。
デザインをする喜びは「問題を解決する」こと。美しくても問題を解決しなかったり、機能しないのであれば意味がない。トレンディであったり、ファッショナブルなものが溢れている今日ですが、そういったデザインに疑問を投げかけています。
デザインは1つしか出さないようにしているランド氏。医者も複数の治療方法を患者に伝えることはないわけだから、デザイナーだって同じであると主張しています。もちろん、ランド氏自身は様々な模索を行うわけですが、ほとんどの場合、デザインはひとつしか出さないそうです。
可能だったら UPS のロゴを直したいと、昔作った自分のロゴの直したいところに指を差している姿は印象的。彼は 2003年に変更された今のロゴをどう思うでしょうか。
抽象的なアイデアを形にしなければならないデザイナー。人の認知が現実世界だけであり、誰もが同じ世界を見ているわけではないので、認知のギャップにどう取り組むのかがデザイナーに立ちはだかる難題だとランド氏は語ります。1つのロゴを提出するだけというケースもあるそうですが、多くの場合パンフレットを作るそうです(例:NEXTロゴ)。文章も彼が手がけているそうですが、デザイナーは抽象的なアイデアを文章によって具現化し、相手に伝えなければならないと主張しています。
彼が生きた時代は Web 以前だったとはいえ、今 Web のデザインで抱えている課題であったり、やるべきことを彼のメッセージから汲み取ることができます。デザインとひとことで言っても定義は違いますし、可能なアウトプットは異なりますが、根底にある「問題を解決する」というのは、どのデザインでも変わらないということだと思います。