Webコンテンツをもう一度考える

開放性、透明性、拡張性という3つの Web の特性を活かすことで、「Webでもできる」ではなく「Webでしか出来ない」新たな体験を提供することが出来るはずです。

MdNが刊行していた雑誌「Web Strategy」第一号に掲載されていた記事を若干調整したものです。2005年の記事ですが、2011年現在にも通じる部分があるので掲載することにしました。
文字数が多いので ePub 版と PDF 版を別途用意してあります。あとでじっくり読みたい方はそちらをご利用ください。

変わったもの変わらないもの

インターネットが一般ユーザーにも利用されるようになってはや10年以上になる。10年の間にデータ転送速度は動画を気軽にダウンロードできるほどのスピードになり、有線のパソコンだけでなく携帯電話をはじめとした様々なネットデバイスからワイヤレスでアクセスすることも容易になった。こうしたユーザー側のネットとのつながり方の変化だけでなく、企業側(コンテンツプロバイダー側)のネットの関わり方も変化してきている。ひと昔は名刺に URL が記載されているだけでもステータスになったわけだが、今や Web サイトをもつことが当たり前なだけでなく、自社サイトでどのようなコンテンツを提供するのかが課題になってきている。一見、Web はすべてにおいて前進し続けているようにみえるが、一概にそうとは言えない部分がある。先にも述べたように技術的な進歩は目まぐるしくより便利になってきているし、デザイナーや広告代理店は常に表現豊かなサイトを作り続けている。しかしながら、Web との接し方や扱い方は10年前とさほど変わりないようにも感じられる。

Webは印刷や TV に比べれば若い。業界そのもの、そして制作ワークフローにおいても他媒体に比べると未熟さが感じられるのではないだろうか。それゆえに印刷、TV でのノウハウをWebに適応させるのは論理的なステップであるといえるし、それが実際うまく機能している部分はある。しかし、印刷や TV で培ったマーケティングやブランディングの手法をそのまま Web に適応させても、それは Web という媒体を最大限に生かしているとは言いにくいのではないだろうか。たくさんの動画コンテンツを気軽に楽しめるようになった今日ではあるが、TV と大して変わらないことをWebで公開したとしても、TV のほうが勝っている。企業パンフレットと同じようなコンテンツを Web に載せただけであれば、いつでもアクセス出来るという Web のメリットは引き出せているものの、ブランディングの側面からいえば Web パンフレットより紙媒体のパンフレットの方が勝っている。

技術的な進歩により引き出しが増えたものの Web コンテンツの扱い方は10年前と大して変わりないように思える。Webサイトというのは見た目が印刷物と似ているということもあり、制作者側もクライアントも印刷物のように捉えがちである。特に自分たちが所有しているコンテンツに関する概念が印刷やTVそのままを適応させるケースが多いように思える。もちろん著作権保持者の権利は守られるべきであるし、コンテンツの扱い方もフェアでなくてならない。しかし、Webの性質をよく考えてみると他媒体にあるような情報を所有する概念を適応させるには無理があるし、制約を作り出しかねない。Webコンテンツを印刷や TV とは異なる概念で扱うことにより「Webでもできる」ではなく「Webでしか出来ない」ブランディングやマーケティングが生まれるのではないだろうか。

実際、今日の Web を見回してみると新たなフェイズに入ってきているのが分かる。小さなIT企業だけでなく世界的な大企業でさえ、今までの一方通行(または双方向)のコンテンツ提供ではなく、多方向で複雑に絡み合ったコミュニケーションスペースを作り上げている。そしてサイトを公開している企業に新たな価値を生み出している。こうした動きの中で共通のキーワードになっている Web の性質が「開放性」「透明性」「拡張性」の3つである。これらの性質はWebの魅力を語る上でなくてはならない存在だといえるが、それでは実際どのようにサイトに反映されているのだろうか。幾つか例をあげながらWebを再検証し、これからのWebコンテンツを模索してみたいと思う。

開放することによってみえてくる新たなユーザー層

世界中にある様々なネットワークに瞬時に接続出来るというのがインターネットの最大の魅力である。ブロードバンドやワイヤレスアクセスの普及にり、その魅力を感じる機会がこれからさらに増えていくだろう。文字通り星の数ほどサイトがあるわけだが、それらはハイパーリンクによって繋がっており、サイトはひとつのグローバルネットワークの中に存在すると考えることが出来る。情報が膨大にあるということは、それだけユーザーの Web の扱い方も違ってくる。検索、ニュースサイト、辞書サイト、個人サイトなど見ているサイトも異なる。サイトの運営側からしてみれば配信している情報は自分のサイトで見てほしいという思いが強いと思うが、ネット利用者からしてみればそれが何処にあるのかというのはそれほど重要ではないときもある。ヘビーユーザーの中には自分が情報をとりにいくのではなく、自分が欲しいと思った情報が自分がおいておきたい場所に表示されるほうを好むわけだ。こうしたデマンドはこれからどんどん広まっていくように思われる。元々グローバルに作られている Web に敷居を築いたとしても、それが逆に隔たりにもなりユーザーもそうした姿勢を好ましく思わないだろう。

近年の RSS の普及は開放的なWebという性質を具体化したものとして注目が集まっている。RSS によって自分が欲しい最新情報を瞬時に入手出来るようになったし、完全にカスタマイズされたポータルサイトのようなものを自作することも可能になった。つまり、今まで情報提供側が「サイトに来てこうやって情報をみてください」という形式で情報が提示されていたわけだが、それぞれのユーザーが自分のネットライフスタイルにあわせて自由に情報へアクセスすることが出来るようになったわけだ。開放的にすることでユーザーにメリットが出るばかりでなく、情報配信者側も情報を開放することでプラスになる部分がいくつかある。Nielsen/Netratingによれば、RSS を購読しているユーザーは通常のユーザーよりニュースサイトに訪れる割合が約3倍も上回っているという調査結果を出している。つまり、RSS があるからサイトを訪れないというわけではなく、幅広く情報収集する姿勢を生み出しているわけだ。サイトへの入り口というものをトップページだけではなく、サイト全体に開放することでアクセスをのばしているわけだ。リンクの数が増えれば同時に SEO にも繋がるというメリットもある。トップページの内容が頻繁に変わるサイトにとっては過去の情報も取りこぼしなくユーザーに提供するという意味で RSS は最適なフォーマットといえるだろう。

BBC Backstage

情報提供側も単に最新情報のRSSを配信するのではなく BBCCNN のように様々な形のRSSを提供してユーザーにあわせた情報配信フォーマットを提供すると良いだろう。 Yahoo! Search は、検索結果をRSSで書き出せる機能を実装しているだけでなく、検索結果の隣に一般ブログ記事も同時に出しているようにしている。こうすることでユーザーはひとつのキーワードで多方面から同時に情報を分析出来るようになるわけだが、こうした多様な情報の見方は単にひとつの大きなコンテンツプロバイダーが情報を提供しているだけでは成り立たないモデルだ。RSS のもたらす恩恵はサイトの見た目や情報提供しているサイトの数だけでは感じ取ることの出来ないひとつの体験だといえるのではないだろうか。これまでは見た目やサービスがブランディングで重要な位置にあったといえるが、これからはWeb全体とユーザーを含めた体験も重要なファクターといえる。

RSSは新着情報の配信だけでなく様々な用途で使うことも可能だ。特に RSS 2.0 で追加されたenclosure属性を使えばテキストだけでなく様々なファイル形式の配信が可能になる。最近、人気が出てきている Podcast はこのフォーマットに MP3 をリンクさせて配信させることによって、更新されたらリスナーにワンクリックで直接番組を聞けるような仕組みを作り上げている。もしこの属性にソフトウェアのダウンロードをリンクさせればオートアップデートを可能にするし、特定の読者に対して PDF フォーマットのレポートを配信するというモデルも作ることが出来る。つまり、今まで実現が難しかったダイレクトなマーケティングが可能になる。会員数やページヒットだけでは計ることの出来ない別のユーザー層を獲得出来るという意味で、Web の開放性を重要視しなければならないように思える。

透明なコミュニティの構築

透明性はブランディングとマーケティングにおいて最も注目されている要素のひとつで、Web はそれに最適な媒体といえるだろう。日本でも最近はブログを絡めた企画や社長自らエントリーするものが増えてきている。こうした動きはこれからも拡大すると考えられるが、企業のオフィシャルブログもこれから増えていくだろう。個人的な生活模様が覗ける日記的な要素をもったものでなはく、企業又はサービスがどのようにこれから進んでいくのかを公開する場、つまり今まで企業サイトに当然のようにあった新着情報のブログ版ようなものである。新しい機能や製品が追加されたら、それを発表するだけでなくその場でユーザーとコミュニケーションがとれるような場を作り、企業とユーザーとの距離を縮めるだけでなくより隔たりのない透明な関係を築くことが可能になるだろう。

Channel9

例えばマイクロソフトのような大企業も Channel 9 と呼ばれるコミュニティサイトを通じてにオープンで透明性のある関係を築き上げている。ここではまだ開発中のテクノロジーやソフトウェアの情報を入手出来るだけでなく、プレスリリース前に Channel 9 で『リーク』させてブログ界で話題になるような仕掛けにしている。ユーザーはコメントや提案を自由に残すことが出来、それらが実際反映されることもある。IE用のブログや、Excel用のブログはユーザーのフィードバックを反映しているのが分かる場所だ。このようなユーザーとの対話が新たなアイデアを生み出す場合もあれば、数値や調査だけでは見いだすことが出来ないユーザーのニーズに答えることも出来る。こうした企業が自らユーザーに近づくという姿勢はユーザーに好印象をもたらし、ユーザーも企業のプロセスに参加しているように思える環境作りが企業の「ファン」を作り出す要因になる可能性もある。

このようにブログを通じて企業とユーザーとの距離を縮めることも可能だが、Podcastもこれから重要な配信フォーマットになっていくだろう。Podcastは次世代インターネットラジオや音声版ブログという側面で説明されることもあるが、既にビジネスシーンで活用されている。例えばIBMは開発者に向けて幾つかの Podcast を配信している。8月に設立された Mozilla Corporation のプレスリリースは Podcast で行われており、社長自ら同社のビジョンを語っている

文字では表現しきれない思いを音声を通じて伝えることが出来るだけでなく、RSSとの連携でダイレクトなマーケティングも出来るようになるだろう。その理由のひとつにブログと同様固定リンクがあることである。ストリーミングやラジオのように特定の日時に聞く必要があったのに対してPocastはサーバーに残ってさえいればいつでも聞くことが可能だ。つまり、番組の最中に広告を入れておけば常時、音声広告を載せていることになる。アメリカでハリケーン・カトリーナの被害があってときに AdCouncil で興味深い試みが行われていた。ここでは募金用として Web に貼付けるバナーを提供していただけでなく、Podcast 用にオーディオクリップも公開していた。気軽にキャンペーンに参加出来るようなツールを提供しておくことで、Podcast での広告を可能にしたひとつの例といえるだろう。

多方向のコミュニケーションをとるには Podcast はブログに劣るだろう。しかし、Webを通じて企業の透明性をアピールするにおいてPodcastはブログとは異なる影響力をもっており、ときにはテキストベースのブログより強いものになることもありうる。広報や開発者は参考書や調査結果でブログや Podcast の力を読むだけでなく、実際その世界に飛び込んでその影響力を体感してもらいたい。そうすることで他の媒体にはない Web 独自の魅力に改めて気付くことが出来るのではないだろうか。

Webサービスが生み出すWebの新たな側面

開放的な Web の性質を利用してコンテンツを積極的に公開するのはプラスであると記述したが、Amazon.com はコンテンツだけでなく機能そのものを早くから開放していた企業だ。Amazon.comのネットセールスが最初に黒字になったのは2002年第四期のこと。Amazon.com が API を公開したのが2002年第一期だが、これは偶然ではないと思われる。API はネットの関連機技術を利用して XML ベースのデータを送受信することを可能にしている。少ないプログラミングで開発者は提供側のリソースを使い、独自のアプリケーションを開発できるのが魅力だ。Amazon.comは API を公開したことにより、自社サイトだけでなく Web 全体に店舗を開いたことになる。従来から JavaScript や画像を利用して自社サイトへリンクしてもらうという手法があったが、API は制作者側が自由にカスタマイズして、見た目を調整することも可能だ(公開規約でサイト名を記載する必要があるのがほとんどだが、それ以外は自由というのが多い)。RSSと同様、APIのような概念は自社サイトの見た目やコンテンツ量ではなく体験を機能を通じて提供しているといえるだろう。すべての自社サービスや情報を特定の場所で提供している従来のモデルから、分散式でシームレスに情報を扱うというモデルにシフトしているのではないだろうか。

このように機能やリソースを公開してユーザーに自由に使ってもらうというスタンスは Amazon だけでなく、GoogleYahoo のような大手企業だけでなく、Flickr のようなサービスサイトも提供している。日本でも幾つかの Web サービスが API を公開している。ニュースサイトでも BBC が実験的に API を公開している。最近ではこうしたリソースを自由に使った「リミックスサイト」というのが登場している。Chicago Crime MapMSNBC Spectra がその典型的な例だろう。2つの異なるリソースを掛け合わせることによって、情報に新たな価値を作り上げている。こうしたリミックスはまだ開発者や上級Webユーザー間でのみ行われているが、ブログが近年メインストリームになったのと同様、ボトムアップのムーブメントが大きなものになる可能性は十分にある。

機能やリソースの公開は従来のWebサイトの概念とは異なるものだが、ライセンスフィーや売り上げのパーセンテージをユーザーに還元するなどモデルはいくつか考えられる。また、広告もキーワードベースだけではなく、ロケーションベースなどさらにパーソナライズされた広告をダイレクトにユーザーに配信することも可能になるだろう。システムを自社開発するのはコストも時間もかかるが、API を利用してリソースを共有することで中小企業でも魅力のあるサービスを提供することも可能になるわけだ。Webがもつ拡張性は新たなビジネスチャンスを見いだすことが可能にするだけでなく、よりパワフルで利用者のニーズに近いサービスを提供する可能性がある。

Webはエコシステム

ここ数ヶ月にわたりWeb業界では『Web 2.0』というフレーズが頻繁に使われている。最新技術を使っていれば、Web 2.0 であると呼べるのかもしれないが、私はそうは思わない。むしろ、最新の技術を活用していなかったとしても今回挙げた3つの Web の特徴を十分に活かしたものであることのほうが重要だ。従来 Web は巨大な世界図書館のように説明されてきたことが多い。もちろんそういった要素は今でもあるし、これからも Web を説明するにおいて重要な要素のひとつであるには変わりない。しかし今の Web は図書館というよりひとつのエコシステムという側面があるように思える。現存のリソースを再利用することによって新たな価値を生み出すという形が生まれてきている。それは情報を提供しているサイトとユーザーの関係も変えてきているだけでなく、ユーザー同士の関係も変えてきている。こうした側面が TV や印刷媒体では実現することが出来ない、Web ならではの魅力ではないだろうか。Web の性質をもう一度見つめ直し、その性質を十分に活かしたサイトを公開することにより、ユーザーに新たな体験を提供することが出来れば「Webでもできる」ではなく「Webでしか出来ない」ブランディングも自ずと生まれてくるだろう。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。