Siriから始まる未来のコミュニケーションデザイン

Siri のような自然言語とセマンティックデータの架け橋になるような音声技術によって、ブラウザやアプリの枠から解き放たれた、利用者との新たな関係を築くことができるようになるかもしれません。

自然言語とセマンティックデータの間で

Siri をフィーチャーした Apple の CM

iPhone 4S に実装されている人工知能アシスタント「Siri」。まだ英語しか対応されていないものの、キーボード、マウス、ジェスチャーに続く第四のインプットとして大きな力を発揮するのではないかと考えています。

Siri を活用しはじめて以来、天気や目覚ましの設定など今までアプリや Web サイトから行わなければならなかった作業が、あっと言う間に完了するようになりました。今までキーボードやジェスチャーを必要とした作業が声によって入れ替わることを実体験すると、インプットの未来を感じざるおえません。もちろん、従来のインプット方法(特にジェスチャー)がなくなることはないものの、声に入れ替わることは少なくないはずです。

以下は予測される Siri と利用者によるおおまかなやりとり。

1. 自然言語で Siri にコマンドを送る。2. 自然言語からキーワードを拾い、Web やデバイスに蓄積されているデータを検索する。 3. 取得したデータを文脈に応じて整形し、利用者に届ける。

Siri 以前から音声入力、音声コマンドでコンピュータを操作する方法はありましたが、Siri の面白いところは自然言語というノンセマンティックなインプットを、ときと場合に応じてきちんと整形されたデータとして変換できる点です。「Is it going to rain today? (今日は雨って降るの?)」という質問に対して「It doesn’t look like it (いや、降りそうにない)」という答えと共に1日の降水確率を表示します。声でのやりとりは対話式でノンセマンティックではあるものの、セマンティックなデータを状況に合わせて的確に表示しています。つまり Siri はノンセマンティックなデータ(音声入力)をセマンティックなデータへと変換・解釈することが出来るだけでなく、そのセマンティックデータを基に人が理解しやすい形式にして表示しています。

同じ天気の話題でも、質問によって若干異なるインターフェイス今日の降水確率と、今週の天気を訊いたときとでは、返答時の UI が異なります。同じ天気のデータですが、会話の文脈に応じて調整しているのが分かります。

Webブラウザとアプリから解き放たれるデータ

Siri は Web ブラウザやアプリという敷居を解き放ち、手軽に素早く情報を提供したりタスクを完了することが出来るようにしています。Web上のデータを Web ブラウザやアプリを介して見るという概念がなくなるわけです。まとまった情報を見るのではなく、必要な情報の断片をコンテキストに合わせて表示を変えながら利用者に伝えることが出来るようになるわけですから、情報の伝達方法がまた違うフェイズに来たのが分かります。

ここで課題になるのが、Apple らしいクローズなエコシステム。今は Apple が選んだ企業のデータのみ Siri で表示させる仕組みになっており、利用者は選ぶ余地がないどころか、類似サービスを提供している開発者が参入することができません。Yelp のレビューではなく Foodspotting の情報を音声で使いたいと思っても出来ないわけです。基本的に Apple は 1.0 サービスはクローズにして、徐々にオープンにするという手法をとっているので、今後 Siri を API のように使える可能性があるかもしれません(もちろんそれまでに様々な技術とデザインの課題が残されていますが)。

Siriが作り出す新たな顧客関係

では、どのような可能性があるのでしょうか。
Webサイトやアプリを飛び越えて利用者に届けることのメリットは何でしょうか。Siri のような人工知能を通して新しい価値を利用者に提供することによるビジネスの可能性はあるのでしょうか。

私は企業サイトの次の形が Siri のようなインターフェイスと繋がることではないかと考えています。以前から利用者をただ待ち続けているだけの企業サイトに限界を感じており、利用者に探させることを前提にしている企業サイトはこのままでは埋もれた情報倉庫になるのではと懸念しています。それでは、Siri のようなテクノロジーが企業サイトのもつコンテンツ資産をどう利活用するのしょう。

ひとつ考えられるのが、サポートのコンテンツと連動したパーソナルカスタマーサービスです。自分が使用しているビデオカメラを Siri に覚えてもらうことで、困ったことがあれば説明書やサポートサイトへアクセスするのではなく Siri に直接訊くことが出来るかもしれません。

Siriで辞書登録のようなことができますSiri に自分のことをどう呼んで欲しいか決めることが出来ます。一種のユーザー辞書といったところでしょうか。

例えば「ビデオカメラをハワイで使いたいけど、できる?」という質問に対して「変換プラグは不要です。バッテリーの充電もそのままお使いになれます」みたいな返答がすぐに帰ってきたり、「ビデオカメラのバッテリーを買いたい」という質問にも在庫がある近くの家電製品店を地図に表示するといったやりとりが考えられます。

従来であれば、自分がもっているビデオカメラの製品名をキーワード入力して検索しなければならなかったことも、一度 Siri に自分のビデオカメラについて知ってもらうことで気軽なヘルプ参照が出来るようになるでしょう。サポートセンターにメールや電話も Siri 経由にすれば電話番号を覚えておくことも不要になる可能性もあります。しかも、Siri があらかじめ製品名を送信してくれれば、少しでもはやい対応が期待できるかもしれません。

こうしたサービスを年間サポートとして有料にもできそうです。購入時にサポートに申し込み、Siri に製品を覚えさせるときにサービスの本契約をし、製品データベースと Siri と繋げる・・・という流れでしょうか。今まで無料で公開していたものの、検索機能の開発とWebサイト全体とのバランスと競合することがあったコンテンツが Web サイトという枠から開放され、Siri のような技術と組合わさせことにより、今までありそうでなかった利用者価値を生み出す可能性がでてきました。

Siriによるカスタマーサービスのモックアップデータは Web 上にありますが、Siri が間に入ることで情報を探すという感覚が薄れ、必要なコンテンツが最適な形で表示されるようになります。

Siri のような自然言語とセマンティックデータの架け橋になるような音声技術は今後増えてくると思いますし、技術が開発者に開放されることによりジェスチャーインプットとは異なる未来の可能性を示しているのではないでしょうか。こうしたブラウザでもないアプリでもない場で Web コンテンツが活かされることで、「Web is everywhere (Webは何処にでもある)」という状態になると思いますし、より人々の生活に近い存在になります。もちろん、今回の書かれた内容は未来の展望・予測ではあるものの、そう遠くない未来に我々設計者は携わることになると思います。そのときに我々はどのようなインタラクションとインターフェイスを通して利用者と関係を築くことになるのでしょうか。今から楽しみです。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。