社会契約とソーシャルメディア

ルソーの著書「社会契約論」の表紙社会契約とは、ジョン・ロック、ジャン・ジャック・ルソー、トマス・ホッブズが提唱した概念です。非常に小難しい言葉ですが、簡単に説明すると「私たちは何かの契約・同意の下、社会と関わりをもっている」と表現できます。憲法やルールのように文書としてまとめられている契約もありますし、作法、マナー、雰囲気のように契約書を交わすわけでもなく、なんとなくお互いが同意しているものもあります。私たちは自由意志で気ままに暮らしているのではなく、契約を交わすことで様々な社会形態をとっているというのが社会契約の基本概念。国、地域、そして人と関わるときの前提になるといわれています。

ソーシャルメディアでの対話をどう行うかを考えるとき社会契約の概念は参考になります。

企業がソーシャルメディアを通して利用者にサービスや情報を提供する際、何かしらの社会的同意が前提になります。ただ、企業の視点で売りたいもの、宣伝したいものを好き勝手に行うと疎外・無視されることがありますし、ときには炎上という結果になることがあります。これは企業が訪問した場の社会契約を破った結果と考えることができます。

情報配信と情報交換の違い

ソーシャルメディア上で何かをするにあたり、個々のサービスに存在する社会契約を理解する必要があります。もちろん、Twitter にしろ Facebook にしろサービスごとの漠然としたルールがあります。それは機能ではなく、コミュニケーションの取り方の違いです。似たような機能を実装していても、サービスごとに集まる人や雰囲気、そして利用者が気にかける部分が違うのも、サービスと人との関わり方が違うからでしょう。サービス全体の社会契約は機能から生まれてくるものが多いですが、ここではどのサービスでも共通する部分について解説します。

情報配信をするのであればサービス全体に関わる社会契約の理解が必須です。企業に対して期待されていることに応えることが顧客のタイムラインに居座るための契約といえます。フォローされたから、何をしてもいいわけでなく彼等の期待に応えることではじめて認められたことになると思います。

具体的に企業は何を期待されているのかを知るには、矢野経済研究所が発表したソーシャルメディアに関する調査結果が参考になります。企業メディアへの期待・要求事項のトップ5 (Twitterの場合) は以下のとおり。

  1. 情報がはやい
  2. 他のユーザーの声が聞ける
  3. 新商品・サービスの情報が得られる
  4. 質問の反応がかえってくる
  5. 生の情報を知ることが出来る

1, 3, 5 のような期待は、情報配信という一方通行のコミュニケーションで容易に達成することができます。ここで課題になってくるのが 2, 4 のような双方向・多方向のコミュニケーションに対してどう対応するかです。一方通行ではないコミュニケーションを行う際、サービス全体だけでなくコミュニティや個人というマイクロな視点の社会契約にも注目しなければいけません。

サービス、コミュニティ、個人のレイヤーによりコミュニケーションの深さが異なる個人になればなるほどコミュニケーションに深さが生じます。
その深さは社会契約の詳細さにも関連している可能性があります。

関わりから生まれる同意

情報配信を少し帰るだけでも、人との関わり方が変わることがあります。

私は Twitter で、様々なリンクだけでなくWebデザインに関わるメッセージを送り続けています。もちろん自分がそういう Tweet を送りたいから書いているわけですが、みている側も暇つぶしになるサイトが知れる、Webデザインについて考えることが出来るという期待をからフォローしていると思います。フォロワーをみてもデザイナー、IT関連が多いのも頷けます。私は Tweet し続けることで、いつの間にか自分とフォロワーとの間で社会契約を結んでいるといえるでしょう。

こうしたなか、突然 Tweet の内容を変えるとどうなるでしょう。今までやってきたことはすべて止めてしまい、代りに食事のログだけを Tweet し始めたらどうなるでしょうか。私個人を知っている方であれば、これくらいの変化ではフォローは止めないかもしれません。しかし、リンクやメッセージを期待していた方には突然の変化がノイズに感じるかもしれません。

Tweet の変化がよくないと言っているわけではありません。私たちは様々な同意のもとソーシャルスペースでコミュニケーションをとっているということです。私という個人との関わりを持ちたい人と、そこで発していた情報と関わりたい人では期待値が違いますし、タイムライン(パーソナルスペース)に入って良いと思える理由も異なります。

人がプラットフォームである

情報配信であればサービス全体に関わる社会契約を知るだけで十分でしょう。企業に対して期待されていることに応えることが顧客のタイムラインに居座るための契約といえます。フォローされたから、何でもして良いわけでなく彼等の期待に応えることではじめて認められたことになります。しかしながら、企業に対する期待が単なる一方通行の情報だけではない場合、少しアプローチを工夫しなければいけません。サービスという大きな社会ではなく、コミュニティといった小さな社会に対してどうアプローチするかを考える必要があります。その際のアプローチの基礎は以下のとおりです。

  • ひとつのコミュニティへのアプローチであれば、ホストをしている人やコミュニティの助けを求める
  • 複数のコミュニティへのアプローチをする際は、必ず一貫性を保つこと
  • コミュニケーションの基準を設ける (ガイドラインの制定がひとつの良い例)
  • 基準は設くものの、よりよい環境と雰囲気作りと維持に高いプライオリティをおく
  • 一般的で明確ではない基準より、詳細に定義してある基準にプライオリティをおく

双方向・多方向のコミュニケーションが行われた瞬間、それは私たちが毎日生活している社会と何ら変わりがありません。そこには今回紹介した社会契約の概念が入ってくるでしょうし、倫理的な課題も発生するでしょう。サービスをひとつのプラットフォームとして捉えて、その道具の使い方や情報配信の仕方を学ぶのは重要です。それだけでなく、対話をしたいコミュニティや個人をプラットフォームとして捉え、彼等との関わり方を学ぶことも必要です。サービスをプラットフォームで捉えたときの情報発信の仕方とは別のアプローチになると思います。人と人との関わりがあるからマスメディアではなくソーシャルメディアと呼ぶのでしょう。