ベストプラクティスを実践しても成功しない理由

ベストプラクティスと『成功』を結びつけることは危険です。ベストプラクティスの情報を見つけたときは「何をしたか」ではなく「何を解決しようとしたか」に注目してみてください。

私たちはベストプラクティス好き

セミナーの質疑応答で「ベストプラクティスは何か?」と聞かれることがあります。

文脈によって正しさや評価が変わることがあるデザインですから、成功率が高い手法が知りたくなる気持ちは理解できます。 Web 上でも人気になる情報には、必ずといって良いほど『定番』『10選』『抑えておきたい』といったフレーズを添えてベストプラクティスと呼べる手段が紹介されています。

有名企業が実践しているから。RT や Like がたくさんあって人気だからという理由で「ベストプラクティスだから上手くいく」と考えがちです。模索・失敗を繰り返さなければ良いデザインは生まれないと語られるものの、「失敗したくない」「成功の近道を知りたい」と思ってしまうのが本心なのかもしれません。

1966年に「Hofling Hospital Experiment」という社会実験が行われました。この実験は、私たちが簡単に権威や大多数に同調してしまうことを示しています。医師(実験者)が明らかに間違った指示をしているのにも関わらず、21 人中 22 人の看護師(被験者)が指示に従ったそうです。病院のルールに違反していることも「医師が言っているから」という理由で実行してしまった人が 95% いたことになります。

ついついベストプラクティスに手を伸ばしてしまうのも「失敗したくない」という気持ちだけでなく、「有名だから。人気だから。」という同調バイアスもあるかもしれません。

ベストプラクティスを実践する前に

ベストプラクティスは私たちの仕事に欠かせないですし、参考になる情報はたくさんありますが、見方・捉え方に注意が必要です。

Wikipedia のベストプラクティスのページ では「適切なプロセスを確立し、チェックと検証を行えば、問題の発生や予期しない複雑さを低減させて、望ましい結果が得られると考える」と書かれていますが、とても良い説明だと思っています。

問題が何か分かっていて、それを解決するためのチェック項目があり、誰でもある一定以上の結果が出せることがベストプラクティスと説明しています。ここで重要なのは「問題の本質を理解すること」です。

問題が何かハッキリしないまま、アウトプット(フォーム要素を減らす、見た目を工夫する)をしても解決しないわけです。ベストプラクティスの紹介で注目しなけれればいけないのは「成功した結果」ではなく「どういう問題を抱えていたのか」ではないでしょうか。

「定番」「必見」のようなフレーズや、有名企業の成功事例という『権威』に惑わされて、本来注目しなければならない部分を見ず、盲目的にベストプラクティスを信じてしまうのは危険です。

問題の本質によってベストプラクティスとの相性が変わります。問題の本質を見つけるために以下の 4 つの質問は良いスタートになります。

  • 何を達成すれば成功と言えるのか?
  • 今、達成できていない理由は何か?
  • 最初のステップは何で、弊害になっていることは何か?
  • ステークホルダーは何を評価しているのか?

「お問い合わせが少ない」「デザインがダメと言われる」「ユーザー調査をさせてもらえない」など、様々な問題があると思います。それらの問題対して上記のような質問をして、もう一歩踏み込んでみてください。そうすると次第に問題の本質が見えてきますし、ベストプラクティスとの相性が見えてくるはずです。

問題の本質が見えず、何をしたら良いかも分からないときにベストプラクティスを使うこともあります。何かアウトプットすることで次に何をすれば良いか分かることがありますし、アウトプットを通して問題の本質が見えることがあるからです。

危険なのはベストプラクティスと『成功』を無理矢理結びつけること。
他の方達がベストプラクティスで成功しているのは、問題の本質が何か理解しているからであって、ベストプラクティスを実践したからではありません。これから、ベストプラクティスの情報を見つけたときは「何をしたか」ではなく「何を解決しようとしたか」に注目してみてください。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。