そもそも戦略とは何か

様々な可能性が考えられるなか進み方をひとつ選ぶことを戦略と言います。進むべき方向が決まっていないのに、進み方をあれこれ議論しても答えが出てこないのは当然かもしれません。

ビジネスシーンはもちろん、デザインの文脈でも耳にする「戦略」という言葉。よく使われる言葉ですが、実際どういう意味なのでしょうか。実はデザインにおいても戦略はとても重要で、作り方だけでなく評価にも大きく影響します。戦略を自分の言葉で表現するとしたら「どれも間違っていないけど、あえてコレと決めること」と捉えています。

間違いがないなかで決めること

例えば東京から池袋へ移動したいとします。この場合「池袋へ行く」がゴールになります。電車を使うとしたら丸ノ内線が最短ですが、JR 山手線でも同じ金額で行けます。もちろん電車以外にも車やバスを使うこともできます。お金持ちだったらヘリコプターで移動をするかもしれません。

東京から池袋までの行き方を視覚化

移動手段は時間とお金で決めることが多いですが、他にも決めるための要素があります。

  • 慣れているかどうか
  • 寄り道するところはあるか
  • 事故・障害が起こったときに回避できるか
  • 一緒にいる人は誰か、それともひとりか
  • 通る景色はどんなかんじか
  • 到着後どこへ行くか

何を重要視するかは人それぞれなので、それによって正解が変わります。だからといって間違った移動手段もありません。丸ノ内線に比べて JR 山手線を使うほうが時間がかかりますが、JR の利用に慣れていたら最適な手段です。様々な選択肢はありますし正解ばかりですが、「これ!」と決めて移動を開始します。

戦略も「東京から池袋へどう移動するか」のシナリオに似ています。

売上を向上したい。使いやすいプロダクトを作りたい。もっと魅力的な web サイトにしたい。どのゴールを設定したとしても、進み方は何通りもありますし、どれも間違いではありません。むしろ、いずれの進み方にもメリットがある場合のほうが多いと思います。どれも正解に見えてしまうなか、ビジョン(なぜそのゴールを目指すのか)に合うと思われる進み方をひとつ選ぶこと。それが戦略だと思います。

戦略がないから決まらない

戦略を「進み方をひとつ選ぶこと」と説明しましたが、「あえてやらないことを決める」と言い換えることができます。先述した「東京から池袋へどう移動するか」のシナリオでも間違いと呼べる進み方は存在しないように、仕事における進め方も様々な道筋があります。ただ、戦略をひとつ決めておかないと、「JR 線を使いたいけど地下も通りたい」と言っているのに近い状態になります。

デザインには誰もが納得する唯一の答えがありません。見た目のテイストはもちろん、課題解決方法もたくさんあるなか作らなければいけません。「こういう方向性でデザインしていきます」という戦略がないと、偉い人の気分で決まることがありますし、無茶な『いいとこ取り』をしたぎこちない成果物が生まれます。

以下の 4 項目を考慮して戦略が練られているのが理想的です。ビジネス戦略を考えるときの項目ですが、デザインにも通じるところがあります。

  • フォーカスする市場・領域
  • 提供できる独自の価値
  • 使えるリソース(予算、人材、時間など)
  • 価値の引き出し方と持続方法

進むべき方向が決まっていないのに、進み方をあれこれ議論しても答えが出てこないのは当然かもしれません。JR で行ったほうが良い、地下鉄のほうが楽だという議論をする前に、どう進むべきなのか決めなければ着地点を見つけることができません。これと似たようなことはデザインの仕事でもよくあることです。

デザイン思考、Adobe XD、ジャーニーマップ、Figma、デザインスプリント、Sketch、ユーザー調査 … これらはどれも戦術(手段・手法)であって、戦略ではありません。戦略がないままだと、どの戦術を使おうが価値を引き出すことは困難です。結果的に手段が目的となり、手を動かすことに意味があるといった『儀式化』になってしまうこともあります。

ビジョン、戦略、戦術の関係

戦略は、組織としてどうあるべきかというビジョンと、具体的にどう作り上げていくかという戦術の間にあるリンクのようなものです。どう進むのか、そしてあえてやらないことを決めることはビジネスやデザインだけでなく、キャリアにも通じることだと思います。手段・手法を考える前に、自分たちの仕事に戦略があるかどうか見直してみるのはいかがでしょうか。

参考資料

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。