デザイン原則がどの現場でも必要な理由
皆がなんとなく頭に思い浮かべている「大事なコト」が、言葉が共有されていないばかりに、すれ違ってしまうことがあります。
大企業だけのものではない
デザイン原則は、ひとりのデザイナーがマニフェストとして明示することもありますが、最近は多くの企業がスタイルガイドと一緒に作られることが多くなりました。ここで言うデザイン原則とは、タイポグラフィや配置といったデザインするためのノウハウではなく、「我々が考える良いデザイン」が文章として表されたものを指します。つまり、自分たちのスタンス(立ち位置)を示したものです。
Material Design だと、以下の 3 つの原則があります :
- 実世界にも通じる空間と動きをメタファとして扱う
- 力強く、視覚的であると同時に意図的
- 動きを通して操作や表示の意味を伝える
また、Facebook のデザイン原則だと、「ユニバーサル」「一貫性」「使いやすさ」など1単語でシンプルに表現されています。もちろんこれだけだと分かり難いので解説が添えられています。例えば「一貫性」であれば、再利用できるものは無理にリデザインしない、同じ部品であれば同じように動作させることで信頼性を高めると説明が付け加えられています。
こうしてデザイン原則を明文化することは大企業だけでなく、小さなプロジェクトにも必要だと考えています。私の場合、小規模の Web サイト制作でも、そのプロジェクトにおける原則をつくって共有するようにしています。
見失わないための灯火
大企業のようにスタイルガイドやデザイン原則のために素敵な Web サイトを作る必要はありません。しかし明文化することで、デザインが多くブレることを防ぐことができます。
デザイナーであれば「利用者中心」「シンプル」という言葉を原則として取り入れたいと考えるでしょう。もちろん、それらはプロジェクトによっては原則になりえる言葉です。しかし、多くの言葉には様々なニュアンスが含まれています。例えばシンプルという言葉ひとつにしても、様々な要素が省かれていているという意味でシンプルと言う場合もあれば、目的まで辿り着くためのステップの少なさをシンプルと指す場合もあります。
Facebook のデザイン原則は、簡素で抽象的な言葉が使われていますが、それぞれ説明が加えられています。言葉には様々な捉え方があるからこそ、「私たちはこういう意味で、この言葉を使っています」というのを明確にしているわけです。デザイン原則を作るのであれば、必ずどういう意味でその言葉を使っているのかまで表現する必要があるでしょう。
このようにデザイン原則を掲げるのは、マーケティングやブランディングといった対外向けに作るという場合もありますが、真の目的は対クライアント、又はチーム内でのコミュニケーションのためです。
デザイン批評をする際に、利用者の目的、ビジネスの目的に基づいて議論をするのは基本です。しかし、実はそれだけではなく、「自分らしさ」という別の評価基準もあります。様々な制約があるなか、あえてある表現を選ぶ理由。幾つもの正解があるデザインに、「これが自分たちのデザインだ」と選べる基準が必要です。デザイン原則は、デザインの会話をする際に立ち返ることができる存在になります。
長くプロジェクトに関わっていたとしても、人であれば忘れてしまいます。私の場合、先週決まったことをすっかり忘れてしまうことがあります。忘れてしまうことで、いつの間にかデザインが迷走してしまうこともありますし、ひっくり返ることもあります。そうしたことを未然に防ぐために「私たちは、この原則を基にデザインについて話しています」と言えるものが必要だと考えています。
デザイン原則は、企業によって様々な表現がされていますが、共通していることは以下の 4 点です。
- 簡略で使い易い言葉にする
- その言葉がどのような意味なのか説明する
- デザインにおける優先順位が表されている
- これは外せないという意思表示がされている
これらは、「シンプルであれ」といった「Do」だけでなく、「Don’t」が含まれることもあります。例えば Windows Design Principle には、「カスタマイズではなく、パーソナライズ」という原則がありますが、これはしないということを明示することで、デザインの輪郭がよりハッキリする場合があります。
まとめ
ビジネスにおいて核(コアバリュー)をもつことは重要だと言われていますが、それはデザインにしても同じことです。皆がなんとなく頭に思い浮かべている「大事なコト」が、言葉が共有されていないばかりに、すれ違ってしまうことがあります。いちいち明文化しなくても「なんかこれ良いよね」と言い合える人たちだけで仕事ができるのが理想的ですが、時間が経てば忘れてしまうこと、新しい人が入ってきた際のコミュニケーションロスは解決しなければいけない課題です。
大企業のように Web 上で公開する必要はありません。テキストファイルに書き出して印刷するだけで十分です。まずはデザイナーやプロダクトマネージャーを集めて、自分が大事にしている言葉を書き出してもらうことから始まります。その言葉の意味、ニュアンスを共有することで、プロジェクトにおける良いデザイン、共有できる言葉が次第に見えてくるでしょう。