自信をもってアクセシビリティに取り組むための課題
2月11日、アクセシビリティ・ビギナー(初心者)向けのセミナーAccSell Meetup 008へ参加しました。「アクセシビリティはよく分からないし、難しそう」と考える方に向けて合計 8 回開催されているイベント。私は今回で 2 回目の参加になります。
対象外というのは十分承知していますが、伝える仕事をしている自分としてはビギナー相手にどうアクセシビリティを伝えるのか大変興味がありました。
私はアクセシビリティをどう伝えるのかというのは長年思考錯誤を続けていて、ビジュアルデザインやコンテンツ戦略という、通常アクセシビリティを連想しないところから語るという『変化球』を試している最中です。
今回のイベントは、デザイナーの守谷 絵美さん(@emim)が登壇したせいもあってか、参加者や会場の雰囲気が前回とは少し異っているように思えました。アクセシビリティの考え方、実装の仕方をより多くの方に伝えるには、アクセシビリティの専門家ではない方が、あえてアクセシビリティを語るみたいな機会をもつことは重要だと改めて感じました。
イベント関連の情報はポッドキャストやトゥギャッターがおすすめです。
今回のイベントを通して、以下の課題をどう取り組むかが普及の鍵になるのではないかと感じました。
- 時間の課題
- 決めて進める課題
- 自信に繋げる課題
やっぱり時間がかかるという現実
植木 真さん(@makoto_ueki)のセッション「JIS X 8341–3:2010を『日本語訳』してみる!~Webアクセシビリティの基本の『キ』~」では、JIS X 8341–3 の重要ポイントをみながら、今からできる対応策を幾つか提案されていました。画像に代替テキストを入れるなど、確かに簡単なことが紹介されていました。
植木さんのセッションだけではありませんが、アクセシビリティのセミナーで「簡単」という言葉を耳にするようになりました。難しいというイメージが先行してしまっている Web アクセシビリティですから、簡単に始めることができることを伝えなければいけません。
やることになれば簡単なことが多いアクセシビリティですが、「難しい」のは JIS X 8341–3 のようなガイドラインを指しているわけではないことがあります。「alt」や「role」を記述するのは簡単です。しかし、そこに的確な情報を入れるだけでなく、膨大な量を処理するとなると時間が必要です。
自動化できるところも増えてきましたが、それでも担当者が丁寧に確かめる必要があります。とにかく時間が必要です。アクセシビリティを確保・維持するための時間を獲得するのが「難しい(簡単ではない)」と感じている人も少なくないでしょう。ただでさえ実装の時間が圧縮されがちですから、さらに時間を要する作業をどのように割り当てれば良いのか分からない方もいるはずです。
決めて進める人がいるかどうか
JIS X 8341–3 や WCAG は、指針(ガイドライン)であり、規則ではありません。方向性や考え方の基準が示されているだけなので、あとは制作現場によって柔軟に対応できます。様々な現場のニーズや制約にも対応することができる指針ですが、指針であるが故に読み手によって捉え方が異なることがあります。
デザインを決めて進めることが難しいように、現場でアクセシビリティの対応の仕方を決めて進めるのが難しいことがあります。デザインにも厳格な規則はありませんし、主観性が入り混じることがあります。そこで、決めるための前提を共有する必要がありますし、進めることができるリーダーシップが欠かせなくなります。
.@ma10 「これが正しい対処方法です」という自信をもてる、説得できるものは必要だと感じています。どうとでも解釈できてしまうと、個々の経験や価値観に依存して、なかなか決まらないというのはあるかも。デザインとかそういうケースがありますね。 #accsell
— Yasuhisa Hasegawa (@yhassy) February 11, 2015
『作って納品』の仕事関係でできるアクセシビリティ対応は、非常に制限された領域の話だと思う。運営のための予算をどうやってとるかによって決まるかもね。まぁなんでもそうなんですけど。 #accsell
— Yasuhisa Hasegawa (@yhassy) February 11, 2015
これは、アクセシビリティにも同様のことがいえます。指針に身を委ねているだけでは、表層的な対応で満足しまうことになりますし、過剰な対応によって運営が追いつかない可能性も出てきます。プロジェクトで共有できる価値観のようなものがないとデザインが崩れ去る可能性がありますが、アクセシビリティにも同じようなことがあるはずです。納品時は専門家が付いていたから大丈夫だったものも、決めて進めるための運営体制がないと徐々に未対応のサイトのようなことになります。
過小評価しやすい制作者
講演者が簡単に実装できるという言葉を発するのに対し、参加者が口に出すのは「私なんて」という言葉。指針に書かれている評価基準を達成していなければ、「アクセシビリティに取り組んでいる」と自信をもって言える機会が少ないからかもしれません。それが結果的に「自分には難しい」という考えに繋がり、始めるため第一歩が踏み出せないこともありそうです。
「Webアクセシビリティを当たり前にするために」でも取り上げた 10 の Tips に挑戦するだけでも良いと思います。残念ながら今のところ、これらの Tips を実践したからといって「アクセシビリティ対応しました」と言えるような評価基準はありません。しかし、こうした小さな勝利を重ねることで、「自分もアクセシビリティ対応をしている」という自信に繋がると思います。
JIS X 8341–3規格レベルAといったような、分かりやすい評価基準だけでなく、共感が自信につながることもあります。
今回のイベントで守谷さんのようなデザイナーが登壇することの意味はそこあると思います。指針の話をしなくても Web アクセシビリティの話はできること。専門家でなくても何か自分にできることがあることに気付くこと。まずは自分が定義した「アクセシビリティ」で初めてみて、もっと勉強したいときに JIS X 8341–3 のような指針が出てきても遅くはないと思います。
ユーザーのアクセスの仕方も多様化しているのであれば、アクセシビリティの定義も視点によって様々な表現方法があるんだという多様性と寛容さも必要。「私なんてアクセシビリティ対応していない」という過剰な謙虚さをなくすようなことも課題ですね。 #accsell
— Yasuhisa Hasegawa (@yhassy) February 11, 2015
自分が考える Web アクセシビリティ。今の自分にもできる Web アクセシビリティ。制作者に自信をもってもらうには、様々なアクセシビリティの表現を受け入れる寛容性は欠かせません。それが制作者の間で Web アクセシビリティを身近に感じてもらえる近道になるはずです。