複雑をシンプルにしても駄目な場合
「シンプルがベスト」という言葉はデザイナーでなくてもよく使う言葉です。しかし、すべてをシンプルにしてしまえば良いというわけではありません。シンプルの反意語で「複雑」という言葉があります。しかし、英語の「Simple」の反意語には「Complicate」と「Complex」という2つの言葉があります。いずれの単語も日本語にしてしまうと「複雑」になってしまいますが、使い方が違います。そして、「Complicate」をシンプルにするのと、「Complex」をシンプルにするのは意味が異なります。
「Complicate」は込み入ったものや困難という意味がありますが、「Complex」は幾つかの部品からなる複合体、入り組んだという意味が含まれています。共に複雑に構成されている可能性がありますが、必要なもので作られた複合体(Complex)だとしたら、シンプルにするのは難しいです。つまり、「Complicate」はシンプルにすると良いですが、「Complex」は一概にそうとは言えないということになります。複雑だからシンプルにしたほうが良いというわけではなく、その複雑さがどういった性質のものか判断が必要になります。
Webサイトにおいて複雑化は避けられない道です。これは Web 特有の現象というより、生物界の進化も同じ道筋を辿っています。Twitter や del.icio.us も当初は単一機能でしたが、今はたくさんの機能が実装され複雑化しています。Webアプリケーションだけでなく、コンテンツサイトもそうです。数記事だったのが数百・数千になりナビゲーションが複雑化していきます。「Complex」であったとしても利用者がシンプルと感じてもらうための工夫が必要になりますが、それが「機能やコンテンツを省く」というわけではないということです。
Don Norman 氏は「Simplicity Is Not the Answer (シンプルが答えではない)」という言葉を使っています。これは彼の著書「The Design of Future Things」にも書かれていますが、機能と利用者の願望やニーズの度合いがマッチしたときにシンプルという感情が生まれるだけであり、機能の数が絞られているだけではシンプルとは言えません。
簡単なことではないですが「複雑」という日本語の真意を改めて考えてから、どうシンプルにするのか検討する必要がありますね。