コンテンツやデザインに欠かせない価値観を共有するプロセス
利用者中心とは言いますが
自分たちが作りたいものを作るのは身勝手な行動のように見えますが、「自分たち」という価値(アイデンティティ)が確立されているかされていないかは大きな差があります。価値がないまま、「利用者のため」という考えだけ一人歩きしてしまうと、極度な A/B テストの実践など、数字が高いほうを選択するという製品開発になる可能性があります。
利用者中心のデザインは必要です。しかし、それは土台になる【価値観=ビジョン】があるから成り立つものであり、いきなり利用者中心のデザインプロセスを実践しても意味のないことだと考えています。スタートアップ向けの講座で ビジョンの共有が重要だと話したのもそのためです。プロジェクトを始める際は、必ずといっていいほど「我々は何者か」という部分を振り返るようにしています。
付箋には「気分が良い」「落ち着く」といった、感情的なフレーズが含まれることがあります。「◯◯できる」といった機能や「使いやすい」のようなデザインに関わるフレーズと同様、感情も重要視しています。形にするのが難しいですが、デザインの方向性や、コンテンツの制作・編集に多大な影響を与えるからです。
工程が道筋を示す
良い製品・サービスを作り上げるには以下の順序で視覚化、具体化することが重要だと考えています。
- 自分たちは何者なのか?
提供したい価値はなにか。大事にしたいこと、守りたいものはなにか。 - 利用者は誰か?
価値に共感してくれる人は? それを潜在的に求めている人は? 彼らの実態はどのようなものか。 - ゴールはなにか?
ターゲットにしている利用者は、製品・サービスを通して、何を得ることができるのか。そもそも何を必要としているのか。 - どのように伝えるか? 具体的にどのようにゴールへ導きけばいいのか? 利用者に合う作法や能力を考慮された振る舞いかどうか。
これらを共有せずに、作ることを優先してしまうと、かえって全体工程を遅らせることがあります。作ったあとに「なんとなく違う」「別の見せ方のほうがよくない?」みたいな反応がでてしまうのも、価値観を共有するための工程を怠ることが原因にあります。価値観を共有すれば、迷いがなくなってスムーズに作れるというほど簡単な話ではありませんが、灯台の光がないまま、目的地へ向かうのとは大きな違いです。
上記 4 点について話し合うというのも手段ですが、ワークシートを用意して穴埋め式で文章を書いてもらうのも有効です。ひとつの文章を作ることで、自分たちが何をするべきなのか明確になることがあるだけでなく、ステークホールダーも参加しやすいクリエイティブプロセスです。
ステークホールダーを巻き込むことが難しいことがありますが、参加してもらうことで何を作るべきなのか明確になります。また、どれだけ作ることができるのか(運用できるのか)、必要とされているコンテンツがどれだけあるのかといった、理想だけではない、現実的な課題も見えやすくなります。コンテンツ・インベントリーから、必要ではないコンテンツ、編集が必要なコンテンツを洗い出すことができます。
コンテンツとデザインは、ステークホールダーとの「価値観の共有」という段階では同一と見なして取り組むことができると考えています。デザイナーとして常に利用者に目を向けているべきですが、彼らが求めているコンテンツや機能がなければ利用者は次第に離れていきます。彼らが求めているものを提供できるように、利用者だけでなく、製品そのものにも注視が必要です。そして、設計・構築をしやすくするために、価値観の共有に時間をかけることは損ではありません。