50日間付箋紙に絵を描き続けて気づいたこと
仕事では味わえない付箋紙との関わりを通して、やっている本人しか得ることができない知恵や経験を得ることができたと思います。
始めたきっかけ
今は瞬時にいろいろなものを手に入れることができる時代です。自分が欲しいと思ったタイミングで様々なコンテンツやツールへアクセスできるようになりました。そうした環境で日々暮らしていると、スキルや知識も瞬時に身につけることができると考えてしまいがちです。しかも周りを見渡せば「すぐにできる」「手軽で簡単」「知っておかなければ損」といったフレーズが飛び交うわけですから、早く手軽に済ませたいと思う気持ちが強まります。
しかし、身につくスキルを得るためには時間が必要なのが現実です。いきなり 1000 文字以上の記事は書けませんし、調査・研究を積み重ねた壮大なプランを立てても試行錯誤を繰り返さなければ成功に近づきません。スキルのある人とない人の違いは、時間を割いているかどうかと関係しています。
マルコム・グラッドウェルの著書「天才! 成功する人々の法則」で、『一万時間の法則』が紹介されてます。書籍によると才能のある人の多くは一万時間以上の練習を続けていると言われています。天性の才能というのはあるかもしれませんが、ひたすら続けることが身につくスキルを得るための近道だと思います。
すぐ結果を求めず、まず続けてみるという行為は、今だからこそ大事ではないでしょうか。
8月から続けていた、付箋紙に何かを書き続ける「#sticky50」は、とにかく続けることを実践するための企画。「やってみようかな」と思った次の日に Twitter をはじめとしたソーシャルメディアで告知しました。軽く始めましたが、多くの方が参加したクリエイティブな企画になりました。
小さな紙の上で広がる様々な世界
文字だけのものから、背景をうまく利用したものまで様々な付箋紙が集まりました。物語のようなシリーズもあって、続けて観覧すると面白い付箋紙も幾つかあります。ソーシャルメディアで #sticky50 を追うと参加している方の付箋紙をみることができます。
勢いで始めただけだったので、最初はノーテーマで描き続けていましたが、 6 日目あたりから『神話』をテーマにして 1 日 1 付箋紙描きました。日々のデザインの仕事は、現実的な問題解決が大半です。考え方が作られた枠組みの中にハマりがちになります。付箋紙の中だけでも自由に発想を広げようと思い、非現実的なもの、神話やファンタジーから影響を受けたものを描きました。
個人的なお気に入りは 36 日目に描いたシャーマンです。
続けないと分からないこと
以下、続けて気づいたことや、本企画で注意していたことを共有します。
質だけでなくスピードも変わる
描き始めた頃は、わざわざ鉛筆で下書きをしていましたし、線もぎこちないものでした。2 週間くらい経ったあたりから下書きはサインペンでラフな形状を作るだけにして、消す行為をしないスタイルに変わりました。日が経つにつれて紙に描くことに遠慮がなくなり、大胆な形状のものが描けるようになりました。
学生の頃はよく絵を描いていましたが、そのときの勘が次第に戻ってきたような感覚。頭に描いたものと紙に描かれる絵との距離感が少し短くなったと思います。
考え過ぎず、まず動く
企画は勢いで始めたにも関わらず、最初は考え過ぎて絵にならないことが多々ありました。昔はそれなりに絵が描けていたことと、Web 上に公開するから上手に描かないといけないという余計な考えが邪魔していました。
これはデザインにも似たようなことがあって、慣れていないときはプロトタイプひとつ作るにも、上手に作ることが先立って時間がかかっていたことがありました。考え過ぎずに手を動かせるようになるには、ある程度の慣れが必要だと改めて思いました。
窓口を広げつつ緩い繋がりを作る
こうした『企画モノ』は利用サービスを限定したり、参加のためのルールが幾つかあることがあります。今回はあえて企画サイトを作りませんでしたし、サービスも限定しませんでした。ルールは付箋紙に何か書くことと、共有時にハッシュタグ #sticky50 を入れるだけ。ハッシュタグは様々なサービスで使われていますし、あとでまとめるのも楽です。
今は Web やアプリの使い方が多種多様です。使い慣れていないサービスを使わなければ参加できないというだけで敷居が一気に上がります。たまに私のほうで作品を拾い上げるようにしましたが、基本自分たちがシェアしたい場所でシェアすることを推奨したほうが良いと思います。
緩くても先導者は必要
付箋紙に何か描き続けるというアイデアは目新しくありませんし、自分が #sticky50 のオーナーとも思っていません。今後も誰もが自由に初めれば良いですし、私が発案者と言う必要もないと思います。
「みんなで緩く」というのは自由な雰囲気で入りやすいですが、緩すぎると個々の自主性が頼りになってしまい、皆でやる意味も薄れてしまいます。無理にまとめるようなことはしませんでしたが、それでも先導者のような存在は必要だと思います。「みんながんばろう!」みたいなメッセージは不要ですが、皆の様子を知らせることはモチベーション維持に繋がります。知らせる、紹介する役割の人は先導者の役割のひとつでしょう。
例えば、意識的にハートや Like を付けるようにしましたし、マイルストーンになるような出来事は告知もしました。例えば Instagram での共有数が 1000 を超えた際は、以下のようなツイートをして Instagram での出来事を Twitter で紹介することをしました。
まとめ
続けることは簡単なことではありません。
続けない理由は星の数ほどあります。
付箋紙はデザインの仕事において身近なツールですが、絵を描くには制約があります。また、忙しい毎日のなかで続けるわけですから時間の制約もあります。制約との向き合い方が、参加者それぞれ違っていて面白かったです。仕事では味わえない付箋紙との関わりを通して、やっている本人しか得ることができない知恵や経験を得ることができたと思います。