目的とインターフェイスの関係で変わるシンプルの意味
先日、帰省した際に母と家電量販店を訪れました。そこで、いろいろな製品を見学したり質問に応えながら雑談していたわけですが、母が興味深い言葉を残していました。
「私とあなたではシンプルの意味合いが違う」
例えば Apple TV は、TVに接続するとパソコンからメディアをストリーミングしてくれるだけでなく、TV番組や映画、YouTube も見れるようになります。録画して残すという考えから、クラウドを利用してオンデマンドでいつでも好きな時間に見るこという考えに変わります。何が出来るのかを理解しているのであれば 1台で様々な役割を果たす Apple TV のようなデバイスは便利でシンプルです。
しかし、1台で何でも出来るということがシンプルにならない場合があります。使い方によって様々なメディア体験ができる Apple TV より、録画・観覧するためのデッキ、ケーブルTVをみるためのチャンネル、ゲームをするためのコンソールなど、目的や機能に応じて明確に分かれていたほうがシンプルと捉える方もいます。用意しなければならない機器が増えて一見複雑に見えますが、「この目的を達成したいなら、これを使えば良い」という使うための手順がシンプルです。目的以外の選択肢がないこともシンプルに繋がっているのでしょう。
1. 様々な選択肢があっても目的が明確にある場合。 2. 入り口はひとつだが目的に応じて操作が違う。
目的を達成するための手順が多様なのも複雑に感じる場合があります。
Aの手順でもBの手順でも構わない、操作は利用者の思う方法で自由にできる・・・というのも、複雑に感じる方がいます。場慣れしている利用者であれば、A か B いずれか慣れた操作を選択するでしょう。自分の思いどおりに操作が出来ることから「シンプル」と感じるかもしれません。しかし、A も B も大丈夫といわれると「どちらも覚えなくてはならないかも」と思う方もいます。柔軟性の高い操作を実現しているつもりが、正解を求める利用者にとっては覚えることが増えて負担になる可能性があるわけです。
最近、ユーザーインターフェイスをシンプルにしようと選択項目を減らしたり、メガメニューを活用しているサイトが増えてきました。必要最低限の情報を最初に提示して、徐々に情報を掘り出せるような見せ方になっていますが、利用者に高い能動的アクションを要求しているところが欠点です。自分が頭の中に描いている情報と、画面に表示されているキーワードを結びつける作業が発生するだけでなく、隠れている情報がどのキーワードに分類されているかも予測しなければいけません。もちろん、それが出来る人ばかりではないので、闇雲にマウスを移動させる方もいるでしょう。しかし、こうした「とりあえず動かせば、何か欲しいモノに出くわすだろう」という操作の仕方は上級者向けだったりします。
インターフェイス上ではシンプルになっていても、操作の手順や探す手間が複雑というケースは多々あります。UI デザイナーや IA の専門家の間で考え抜かれた分類でも、隠すという処置を行うことでシンプルではなくなる場合もあるわけです。分かっていれば何処に隠れているか分かりますし、熟練してくると場所も予測がついてきます。しかし、そういった考え方になるには慣れと時間が必要です。
先に例を挙げた Apple TV にしてもそうで、Apple 製品に触れ、触る前から何が出来るのか知っている人にとっては生活をシンプルにしてれる道具です。しかし「何でも出来る」という万能性が複雑さを生むこともあるということです。Apple TV だけではありませんが、こうしたパソコンを彷彿させるような万能機は人にとって得体のしれない存在になりかねないですね。
それでは、選択肢は可能な限り見える場所に配置しましょう・・・というとそうでもないのが難しいところ。以前、複雑をシンプルにしても駄目な場合を解説したことがありますが、母の言葉はそこに通じるところがあるなと思いました。インターフェイスやデバイスがシンプルであるか・・・ではなく、誰にとってどうシンプルでありたいかということを考えていきたいですね。