まずビジネスを知る

プロには敵わないものの、デザイナー自ら Web 解析をする理由は、Web解析士が見ている部分がデザイナーが見たいデータと異なる場合があるからです。もちろんページビュー、滞在時間、コンバージョン率といった共通する指標項目はありますが、それらの解釈の仕方や、測定したいディメンションが異なる場合があります。利用者がどのような道筋を辿ったのかをデータを見ながら想像することは、デザインのインスピレーションになります。

しかし、問題になるのが何を指標値にすれば良いのかを決めるところです。見ることができるデータは膨大にありますし、マーティングとデザインとで指標にしたいポイントが異なることもあります。また、設計している Web サイトによって指標が変わってきますから「これを見ておけば良い」と言えるようなオールマイティな指標も存在しません。

私の場合、以下のことをクライアントと話したり調査をしながら、今のその企業に必要な指標を探すようにしています。

  1. 企業・団体のミッションはなにか?何を目指しているか?
  2. Webサイトの目的はなにか?
  3. そのサイトを通して、どのような価値を提供したいと考えているか?

これらの質問を見て「利用者のことは考えないのか?」とおもった方がいると思います。もちろん、具体的な設計や提案をしていく上で、利用者のことを必ず考えます。しかし、データ収集をする段階ではまだ考える必要はないと考えていますし、まずビジネスの目的をしっかり理解することのほうが重要だと考えています。

質問 3 にある「そのサイトを通して、どのような価値を提供したいと考えているか?」に応えてもらうことで、利用者へその価値が伝わっているかどうかがデータで判断できますし、再設計のためのヒントがおのずと見つかります。

まずはビジネスのことを考えて、そこからミスマッチが発生しているかを見つけるほうが、そのプロジェクトにおける現実的な提案が可能になります。これとは逆にビジネスの目的を後回しにして利用者だけのことを考えると以下のような『摩擦』が発生しやすくなります。

  • ビジネスや組織そのものを変えようという無理な提案
  • ビジネスの目的に合わない価値の提供
  • 理想的はあるが、実現までの道のりが長い

点を線にしていく工程

利用者のニーズとビジネスの目的とを照らし合わせることによって初めて見なければならない指標を見つけることができます。

もし Web サイトの目的が「お問い合わせを増やす」であることが分かれば、膨大な量の指標の中から何を見れば良いのか分かるだけでなく、利用者シナリオを描く際にも役立ちます。また、目的を「お問い合わせを増やす」といったシンプルな言葉で表現することができれば、設計のためのプライオリティも伝えやすくなります。

「お問い合わせを増やす」が目的であれば、お問い合わせ数(完了率)を見れば良いというほどシンプルではありません。「問い合わせたいことがあるので、質問を送りたい」という利用者の目的は、彼らの道筋を辿りながら行動(感情)を細分化する必要がありますし、その先々でどのような画面を見ているのかひとつひとつ検査する必要があります。最終的には画面を見なければ問題は見つからないわけですが、無闇にひとつひとつ見るのではなく、目的に沿ったデータをヒントにしたほうが、改善しなければならないポイントが見つかりやすくなります。

「全部古い見た目ですから、変えましょう」では根本的な改善にはならないどころか、何を改善しているのかさえ分かりません。

ビジネスの目的を理解することで、指標値という『点』が見つかります。点を逆算していくように辿ることで、サイトを訪れている利用者の『線』が見えてきます。線が見えてくると、具体的なデザインの提案がしやすくなるだけでなく、提案の理由付けもしやすくなります。すべての見ためを変えるというデザインのインパクトは無視できないものの、目的に沿った小さな改善を提案することも、問題解決のためのデザインには必要になります。