リセットして考えるデザインプロセスが必要な理由

勘や経験はこれからも役に立ちますが、「当たり前」「伝わっているよね」みたいな暗黙知はないものと思って、コンテンツをどのように設計すれば良いのかを話し合う場をもつべきだと考えています。

WCAN Winter 2014

CSS Nite と同様に、年末恒例になっているのが WCAN Winter。例年、ビジュアルデザインやコードの書き方など、「作り方・見せ方」をテーマにしたセッションが必ずひとつありましたが、今年は 3 つあるメインセッションがすべて「コンテンツ」をテーマにしていました。200名以上集まる Web サイト制作系のイベントで、全編「コンテンツ」をテーマにして話せたのは、大きな意味があったと思います。

昨年は「スマホサイトが嫌われる理由と改善方法」と題して、スマホサイトで足りないのはデザインではなく、コンテンツであるという話をしました。当時は、作る前にしっかりサイトの『健康診断』をして、コンテンツをゼロから見直しましょうという内容でした。今回は「なんとなく」を共有する、コンテンツを活かしたデザインプロセスと題して、コンテンツ制作やデザインを進めていく上で、理解・共有しやすくなるように工夫しましょうという事例やデータを紹介しながら話をしました。

私は登壇内容に関する参加者のレポートが幾つか公開されています。

リセットするのが難しい

デバイスの販売台数(1995年から2013年)

上の図は、スマートデバイスとパソコンの世界販売台数を示したものです。2012年で既にパソコンを超えているだけでなく、今はパソコンはスマートデバイスの半分にも及びません。もちろん、パソコン利用者がゼロになるということは(しばらく)ありませんが、パソコンを中心にしたコンテンツ制作やサイト設計をするのはナンセンスであることが分かります。もちろん日本でも同様の傾向になっています

ただ、この図を通して語りたかったのは、スマートデバイスがパソコンを大きく上回っているという点ではなく、十数年続いてきた『パソコン中心の世界』が、わずか 1, 2 年で一変したというところです。

十数年蓄積されてきたノウハウが、場合によってはまったく通用しないことになったことを意味しています。PSDからHTMLページを作るやり方は死んだのも、その傾向のひとつです。今まで『当たり前』のようにやってきたことが、バッドノウハウに変わることもあるわけです。

新しいことを学ぶことは、実はそれほど難しいことではないと思っています。それより難しいのが、今までの知識を一旦『リセット』して学ぶこと。「こう作ってうまくやってきた」「この作り方に慣れている」という考えをぬぐい去り、またゼロから自分の中で作り方を組み立てていくわけですから簡単なことではありません。また、制作者だけでなく、チームメンバーや依頼者も同様にリセットが必要とされるので非常に複雑な問題です。

レスポンシブWebデザインが普及し始めた頃に、無理な実装や、間違った解釈が広まったのも、考えをリセットできなかったからでしょう。パソコン脳にならないことが依頼者を含めた制作に関わる人の挑戦になります。

それでは、パソコンではなくスマートフォンに向ければ良いのかというと、そうでもありません。先日の記事で指摘したとおり、スマートフォンの出荷台数はピークに達しましたし、今後緩やかに低下していきます(利用者数が減るという意味ではないです)。代わりに様々なデバイスが消費者の手元へ届くことになります。今は「マルチデバイス=パソコン+スマートフォン+タブレット」ですが、今後はより多種多様になります。

特定のデバイスに囚われない設計という大きな課題は以前から指摘していますが、いよいよ現実的なものになってきたと思います。

デザインを語れるスキルを

こうして大きく状況が変わっただけでなく、Web へアクセスするための手段が多種多様なので、人によって見えている世界が異なることがあります。見えている世界も違えば、デザインやコンテンツに対する評価も変わることがあります。企業側が「良いコンテンツだ」と絶賛するものでも、利用者側からすればそうでもないことがあります。

設計プロセスを進めていく上で、同意ができる根拠が必要になります。「これがカッコイイから」「センスに任せます」だと、明確な判断基準として進めるが難しくなるだけでなく、運営・持続していくうちにデザインが崩れてしまう恐れがあります。

セッションではデザイナーもデータを見た方が良いということで、Google Analytics を例にして、いくつか見ておきたいポイントを紹介しました。基本的な見方は覚えておいたほうがいいですが、Web 解析士のようなスキルを求めているわけではありません。重要なのは、データを取り入れることで自分の提案を相手に説明できるようになることです。

データはアクセス解析だけでなく、ユーザーインタビューやアンケートといったものも含まれています。「これって良いよね」だけでは伝わらない、デザインの根拠を語るだけの十分な情報を得ることが重要で、Google Analytics の使い方を習得ことではありません。データに触れる窓口をもっているかどうかによって、デザインの話し方が随分変わります。

データ中心ではなく、データとクリエイティブのバランスを見極めてアウトプットしていくのは、両方の理解がある制作者の強みになると思います。

状況が大きく変わっただけでなく、これからも変わっていきます。勘や経験はこれからも役に立ちますが、「当たり前」「伝わっているよね」みたいな暗黙知はないものと思って、コンテンツをどのように設計すれば良いのかを話し合う場をもつべきだと考えています。本セッションが、そのためのヒントになれば幸いです。

筆者について

長谷川恭久

写真:長谷川恭久Webやアプリに関わる様々な話題を取り上げた講演やワークショップをおこなっています。日本各地で講演や社内勉強会を 100 回以上の経験しています。
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