今だから知りたいインタラクションデザインの基礎
再考インタラクションデザイン
Project Jacquard のような技術を目の当たりにすると、いよいよすべてのモノにコンピューターが入ると実感します。株式会社シロクの石山貴広さんとのポッドキャストで、インタラクションデザインを再考するべきではないかという話をしましたが、コンピューターと人間との関係のデザインという 1950 年頃から続く課題がますます重要になると考えています。
もちろん当時に比べて、現在のインタラクションデザインはより複雑なものになっています。コンピューターは複数のサービスとシステムに繋がっていますし、できることも日々増え続けています。人とコンピューターの距離もウェアラブルの普及によってますます縮んできています。コンピューターは私たちの一部であり、アイデンティティ(ファッション)として捉えることもできます。もう道具としてのコンピューターだけではないわけです。
コンピューターが身近な存在になったからといって、インタラクションデザインの考え方が根底的に覆されたわけではありません。インタラクションデザインという言葉は Bill Moggridge と Bill Verplank の 2 人のデザイナーによって生まれました。Bill Moggridge は世界で最初のノートパソコンを設計した人で IDEO の創業者のひとり。そして、Bill Verplank はマウスをつかった GUI (Graphical User Interface) の開発に携わった人で IDEO でもしばらく働いています。彼等が考えるインタラクションデザインは今のデザインにも通じることが幾つかあります。
Verplank によると、インタラクションデザインにおける課題は 3 つあると言われています。これらの課題に応えることが良いインタラクションには欠かせないと言われています。
- どのように関わるか (インプット)
- どのように感じるのか(フィードバック)
- どのように認知するか(理解)
設計のためのフレームワーク
インタラクションデザインは、上記の課題を適切な形状やスタイルに落とし込むためのプロセスと呼ぶことができます。特に第三点目の「どのように認知するのか」という点は重要です。コンピューターの世界でも、ユーザーは今自分がどこにいるのかを知る必要があります。今なぜ自分がこの画面にいるのか、次に何をするべきなのかが分からなければ、次の行動へ移るのが難しくなります。この課題を解決するひとつの手法として、Web デザインではパンくずリストが生み出されました。最近だと Material Design が場所・位置を認知するための課題に取り組んでいて、意味のあるアニメーションを提案しています。
認知の課題は、今後ますます複雑になります。ウェアラブルデバイスでは、コンピュータースクリーンだけでなく、ハプティック(触覚)や音声などでフィードバックを得る機会が増えてきます。スクリーンだけがフィードバックを示す唯一の場でなくなったとき「次のアクション」「タスク達成までのプロセス」を把握すれば良いのでしょうか。
そのときに下図のフレームワークが役立ちそうです。明確なデザインプロセスではありませんが、複雑化するインタラクションを以下のように分解することで、課題に取り組むためのヒントを得ることができます。
Interaction Design Sketchbook より
- Idea(アイデア): 実現したいインタラクションの明言
- Metaphor(メタファ): アイデアを抽象的に表現
- Model(モデル): メンタルモデル
- Display(ディスプレイ): 表示される情報
- Error(エラー): 間違いが起こったときの状況
- Scenario(シナリオ): 利用シーン
- Task(タスク): 発生するであろう様々な操作
- Control(コントロール): 操作するためのアクション
ここ数年出てきているデザインの考え方や表現はインタラクションデザインの基礎を踏まえたものが幾つかあります。新しい情報を入手するのも重要ですが、一度インタラクションデザインを勉強してみてはいかがでしょうか。最新の情報でなかったとしても、今にも通じる発見があると思います。
インタラクションデザインについて学習したいという方は「Designing Interactions」がおすすめです。Bill Moggridge の著書で、インタラクションデザインを包括的に理解できるだけでなく、数多くのデザイナーや開発者のインタビューも収録されています。書籍の公式サイトでは、各章の概要とインタビューの一部がビデオで公開されています。かなりたくさんの注釈があるので、電子書籍のほうが読みやすいかもしれません。しかし、数多くの挿絵やデザインされたレイアウトをみると紙も捨て難いです。
日本語で読めるものだと「About Face 3 インタラクションデザインの極意」も良いですが、ペーパーバックや電子書籍といった別のかたちで発売してほしいですね。