AIで出来ることは広がったが希望は増えていない

AIで出来ることは広がったが希望は増えていない

何でも作れるようになった楽しさと、自分の立ち位置が危うくなる不安は矛盾ではなく表裏一体の感情です。

Figma Make や v0、Stitch を使えば、単なる絵や紙芝居ではない実際に動くアーティファクトを作ることができます。頭の中で想像していた画面を、誰かの手が空くのを待たずに、実機で悪ことができるし、細かな微調整もひとりで出来るようになりました。ここ 1, 2 年で、デザイナーのできる範囲が明らかに広がりました。

「役割は広がる」と言われるが

2026年6月に Figma が発表した「 2026 AI report 」は、この手応えをそのまま裏づけています。デザインが重要だと答えた人は90%、以前より重要になったと答えた人は60%。AIで何でも作れるようになったからこそ、何を作るべきか問う必要があるというメッセージもレポートには込められています。このレポートを読んで「確かにそうだ」と思ったデザイナーは多いと思います。

一方、ほぼ同じ時期に公開された Lenny の「 How tech workers are feeling in 2026 」は少し違う風景を映し出しています。「さらに重要になる」という Figma のレポートとは対照的に、こちらではデザイナーの焦りや疲れが感じられます。例えば、いっぱいいっぱいだと答えた人が63%、疲労を感じている人は61%で全職種の中で最も高いです。リサーチャーも、職を失う不安が51%あります。そしてデザイナーとリサーチャーは、自分の分野を人に勧めないと最も多く答えた職種でした。

Lenny レポートのスクリーンショット
デザイナーとリサーチャーはオススメできないらしい

やれることが広がり、エキサイティングだと言われている当の本人たちが、最もネガティブな数字を出しています。この食い違いはどこから来るのでしょうか。どちらが間違っているわけでもなく、私たちの心にある二つの側面が表れているだけとも言えます。

私自身「AIを使っていろいろ試すのは楽しい」と言っていますし、ポッドキャストのゲストの方でも似た感覚を持っている人が多いです。これは Figma のレポートでもよく表れてます。ただ、私たちが言う「楽しい」とは、あくまで表現の幅が広がったことを指しているだけで、「デザイナーという立場のままで仕事が楽しくなること」とは別の問題です。Figma Make などを使えばアイデアを形に出来ますが、デザイナーの立場が業務の中で強くなるのかというと、そうではありません。

この二面性は、Lenny のレポートできれいに表れています。今の状況にワクワクしていると答えた人は 64%。ところが、希望が持てると答えた人は 33% まで落ちます。何が作れるかには、ワクワクできる。でも、自分の立ち位置が良くなると思える人は半分に減ります。

Figma のレポートだけでなく、「何を作るべきか」「なぜ作るべきか」を問う必要があるという指摘を耳にします。これらは確かに重要な問いです。しかし、デザイナー自身がその問いを立て、さらに実行まで担えるかというと、必ずしもそうではありません。多くの場合、こうした問いを立てるのは決裁権を持つ立場の人です。そのため、デザイナーが自ら問いを設定し、プロトタイプを作り上げたとしても、それだけでは状況を動かすことは難しく、突破口にはなりにくいです。

今の状況に希望が持てないからこそ、「何をするのか」と考えたとき、多くの人はとにかくたくさん試し、作り続けるという選択を取りがちです。 つまり、できることが増えていくのは楽しい反面、その楽しさがやがて消耗へと変わっていきます。仕事の楽しさの性質が変わり、 月ごとに新しい情報が次々と押し寄せ、「自分だけ取り残されている」と感じて焦り続けた結果、疲れ果ててしまう人もいます。他の職種と比べて感情的な疲れを表すデザイナーとリサーチャーが多いのも印象的です。 楽しさと焦り、そして疲れが同居する中で、今までよりさらに多く働いていると感じている方もいるでしょう。

表裏一体の感情と向き合う

不安や疲労を表に出さないまま、感情を抑えて働き続けている人もいると思います。しかし、ふと周りをみると「スゴい!」「こんなの作れた!」「自分でもできた!」といったエキサイティングな情報ばかりです。この感情のギャップを感じながら、自分の立ち位置が次第に危うくなっていくのではないかという漠然とした不安を感じながら働くのは楽ではありません。

状況全体に対する明確な答えを持っている人はいません。 もっともらしいアドバイスや小手先のコツを並べることはできますが、そうしたものでは、今抱えている居心地の悪さは和らがないように思います。 できることとは、Iに悩んでいるのが自分一人ではないと気づくこと。そして、AI活用にある『二面性』について、より多くの情報を交換していくことです。

「ワクワクしている」「今がとても楽しい」という気持ちは本心です。 しかし同時に、言葉にしにくい漠然とした不安を抱えているのも事実です。 その不安は、好奇心がないとか、積極性がないとか単純な理由では語れない、複雑で繊細な感情です。 2つのレポートが示しているのは食い違いではなく、デザイナーが抱える相反する感情が同時に存在している姿なのかもしれません。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。