管理が消えた先にあるナレッジマネジメント

管理が消えた先にあるナレッジマネジメント

AIがタグ付けもリンクも管理も代行するようになって、考えることだけに集中できるようになりました。

ナレッジマネジメント(PKM)に真剣に向き合ったことがある人なら、管理の負荷を経験したことがあると思います。読んだ記事にタグを付ける。ノート同士をリンクでつなぐ。フォルダを整理し、メタデータを整え、過去のメモを定期的に見直す。情報を集めるところまでは楽ですが、それを知識として使える形に加工する段階で、挫折した方は少なくありません。

2022年にナレッジマネジメントについての記事を書きました。そこで情報と知識の違いを「Discovery」「Capture」「Consume」「Process」「Output」という5つのステージに分けて整理しました。このフレームワークは今でも通じますが、私たちが挫折するのは「Process」の部分です。読んだものを自分の言葉で咀嚼し、他のアイデアとの接点を見つけ、整理する。この工程が重たすぎて、せっかく集めた情報が「積ん読」のまま放置されてしまいます。PKMツールはたくさんありますが「せっかく集めた情報をどう活用するの?」「どうやって整理するの?」といった質問が後を絶たないのは、「Process」ステージがいかに難しいかを物語っています。

ツール選びの問いが「自分」から「AI」へ

2026年に入って、この状況が変わりました。AI (Claude Code) が MCP(Model Context Protocol)を通じて自分のナレッジベースに直接アクセスし、操作できるようになったことです。

Tana Local API & MCP Documentation | Connect Tana to AI Tools
Documentation for Tana’s Local API and Model Context Protocol (MCP). Learn how to let AI tools read, query, and write structured data from your Tana workspace using a local, extensible integration.

タグ付け、フィールドの入力、関連ノートへのリンクといった、今まで面倒だった管理作業をAIが処理できるようになりました。自分がやるのは、AIとの対話の中で考えを言葉にすることだけです。対話の過程でAIが過去のノートを引き出し、「過去に書いたこのアイデアを結びつけると、〇〇が考えられます」といった提案をしてくれるようになりました。これにより、今まで見逃していた関係から新しいアイデアが考えやすくなりました。

自分の考えをまとめた「Atomic Note」の生成数も10倍に跳ね上がりました。私の Atomic Note は参照情報や問い同士を結びつけて構造化してありますが、管理の手間が大きくて足かせになっていました。今は AI が代わりに管理をしてくれるので、関係するノートを探したり、どんなタグを付けるか悩む時間が減り、そのぶん考えることに集中できるようになりました。

Atomic Note スクリーンショット
点在する情報がリンク付けされた Atomic Note。今は全自動です。

この変化を経験してみて気づいたのは、ツール選びの基準そのものが変わったということです。以前は「整理しやすい機能が揃っているか」が悩みの中心でした。UIの使い勝手、検索の速さ、タグやデータベースの柔軟さが選ぶポイントでしたが、今は「AIが自分の代わりに整理できるか」に変わっています。自分が直接触る体験だけでなく、AIがどれだけ細かい粒度で操作できるかが、ツールの価値を左右するようになりました。

3年使い続けている Tana はノードベースのアプリです。ノード(node)は、フォルダやページという枠組みに縛られることなく自由に整理できるのが特徴です。例えば、複数の書籍からの引用を重複なくまとめて、ひとつに整理できます。Tana はページではなく node ひとつひとつにタグやフィールドで意味付けするので、node が何を意味するのか AI も人間も理解できます。たとえば Obsidian のようなファイルベースの PKM でも、AIは管理作業を代行できます。ただ、操作の単位がファイルになるため、1つのファイルに複数のアイデアが混在している場合、AIが個々のアイデアを独立して関連付けできる解像度は下がります。

ツールによって好みが分かれますが、1, 2 年前にあった「分類」「整理」「つなげる」といった認知負荷が高い作業から解放されたことは は間違いありません。今はその部分をAIに委ね、考えることに集中できるようになりました。「管理する」という作業は消えて、AI との対話や作業の中で自然に生まれるものへと変わり始めています。

ようやく思考ツールになってきた

今も Tana は使っていますが、私の知識を支える『バックエンド』のような存在になっています。
調査、壁打ち、業務の振り返りなど、特化したエージェントとの会話を通して生まれたアイデアを保存する場所であり、アプリを開くときは内容の確認くらいです。

会話は新しいアイデアのきっかけになりますが、すべてを会話だけで解決することはできません。ツールが提供するのはキーワード検索だけなので、簡易セマンティック検索ツールを別途用意して作ってあります。 ページのような大きな枠の検索結果ではなく、ニュアンスを加味した個々のアイデアを引き出せるのが特徴です。また、常時確認が必要なテーマがあれば Tana に点在する情報をダッシュボードでまとめています。ツールが提供する機能に頼ることなく、自分だけのナレッジエコシステムが作れるようになったのも大きな変化のひとつです。

Semantic Search スクリーンショット
言語の壁を超えて検索。リンク先はページではなく、特定のノードへ。

PKM は 「十分欲しい機能が揃っているか」「使いやすいか」といった問いから、「思考を支援する AI の力を増幅するのに十分かどうか」 といった問いに変わってきています。 この問いと向き合ったとき、実は1つのツールにコミットすることが答えではないということに気づくことになります。例えば、私自身は Tana を使っていますが、重要な情報はローカルで管理し、必要に応じて組み合わせられるようにスキルを設計しています。 一見ややこしいことをしているようですが、 その面倒な管理を省いてくれたという意味で、AIは貴重な存在です。

管理から解放されたことで PKMを始めてみたい方も、再度挑戦してみたい方も、どのツールがいいかを考える前に、自分がAIと対話をしているときに、どんな情報がどんなときに必要なのかを考えてみてはいかがでしょうか。そこから、自分にとって思考しやすいナレッジエコシステムを作るキッカケになるはずです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。