UXから除外されているもうひとつのU
コンテンツ管理者も利用者
「利用者中心」「訪れた方へのケアを」という言葉は私たちがよく使うフレーズ。忘れてはならない視点ですし、今はその視点を抜きしてコンテンツの開発や情報を整理しても成功しないといっても過言ではないでしょう。それゆえ近年、ペルソナ、シナリオ、エスノグラフィなど利用者への深い理解と共感が注目されています。
利用者第一というのは当然のことですが、ここで私たちがいう利用者とは誰のことでしょうか。恐らく多くの場合は、パソコンやモバイル機器などを利用して、情報を求めて Web サイトへアクセスする方達を指すと思います。いつも私たちは Web サイトへアクセスする人たちのことを忘れませんが、コンテンツを管理する人たちも利用者であることを忘れてはいないでしょうか。
サイトに訪れる方達にとって価値のあるコンテンツを提供することが出来なければ、彼等はすぐに離れていきます。訪問者・顧客との関係を繋ぎ合わせる重要なコンテンツですが、素晴らしい Web サイトを作ったところで魔法のようにコンテンツが表れるわけではありません。デザインを見せて善し悪しを判断している場合もありますが、デザインをみたところでコンテンツが作れるようにインスパイアもされません。装飾は訪問者に注目されないという調査結果も出ているわけですし、それ抜きして制作プロセスを進めることはできないわけです。
制作が終われば、私たちの手から離れる場合が多い Web サイト。公開されてからもコンテンツを追加・更新・管理し続けることが出来なければ Web サイトはすぐに死んでしまいます。コンテンツに携わる人たちを利用者と見なして彼等にとって使いやすいシステムを採用しているでしょうか。
サイトの訪問者だけでなく、コンテンツを管理する方達を利用者と捉えるという視点が抜けているが故に、コンテンツが制作プロセスの最後のほうまで注目されないというケースに陥るのかもしれません。彼等にとって使いやすいシステムの採用、カスタマイズ、そしてガイドラインがあるかないかでコンテンツの質が左右されるでしょう。
タスクベースのCMS
国内外で出回っている CMS は「使いやすい」を宣伝文句にしていますが、制作者視点で語られている場合が多いです。しかし、コンテンツを管理していく人達にとって使いやすいと語られているケースが少ないです。コンテンツを管理する人ではなくサイト管理者にとってやさしい機能 (例えば権限の設定など) は紹介されていることはありますが、それ以上は語られない又は小さく紹介してあるだけです。私たち制作者にしても CMS を選ぶポイントを管理が楽、自分たちにとって作りやすいという視点の場合があると思います。システムをクライアントに紹介する際もサイト管理のレイヤーで話が留まっている場合もあります。
小規模のサイトであればサイト管理者がコンテンツ管理者である場合がありますし、ある程度のことはガイドラインで済ますことは出来ます。しかし独自のデータセットやワークフローがある場合や、ひとつのコンテンツ制作に携わる人間が複数の場合など、コンテンツ管理の視点で語られている CMS が少ないです。
例えば、書籍のレビューを作るとします。
とても簡単な記事にみえますが、メタデータや写真や動画といったメディアを追加していくことを考えると途方もない作業になります。そういったデータエントリーはシステムが自動的にするものではなく、人の手が必要になります。訪問者が何気なくみている最適化されたコンテンツの裏には必ずといっていいほど時間をかけた手作業があるわけです。
どの CMS もカスタムフィールドやメタデータ入力といった機能を用意してあるので、上記に挙げていることを実現することは可能です。しかし、開発者とコンテンツ管理者との対話が少ないが故にあまりスポットが当たらないような気がします。
UI として今後必要になってくるのがタスクベースの管理です。機能で権限を切り分けるのではなく、人がそのシーンでやりたいことを達成させることを目的とした管理とインターフェイスが必要です。写真家であれば写真だけアップロードして終わりたいですし、メタデータの処理を行いたいのであればそれだけが見たいです。現状おおまかな機能で切り分けられているので、利用者が見なくていい部分がみえていたり、余計な選択肢が増えている場合があります。人の仕事を機能ではなくタスクで分類できるようなカスタマイズの方法を CMS が大きく紹介する価値はあると思います。
自分たちが作りやすいように作りたいという気持ちは、Webサイト制作者だけでなくコンテンツ管理者にしても同じことです。コンテンツ管理者も利用者と見なして彼等にとっての使いやすさを追求することは、結果的にサイト訪問者の体験向上にもつながると思います。私たち制作者は開発者とより近い関係にいるので、日々のコンテンツ管理に携わる人たちの思いを伝える橋渡しの役割になることが出来ます。彼等のフィードバックからまたより進化したシステムが生まれるかもしれません。