Adaptive Path 買収から思う銀行のこと、デザインのこと
米国の金融大手キャピタル・ワンが UX コンサル会社である Adaptive Path を買収しました。その2ヶ月前にはモジュール式スマートフォン「Ara」を手がけた Daniel Makoski 氏が同銀行へ移籍しています。金融機関という巨大な組織でいかにデザイン思考が広がり、形になるのか今から楽しみです。ひとつの案件としてではなく、組織の一員として内側から変えていくという Adaptive Path のアプローチは、最近の私の仕事の仕方と重なるところがあります。
デジタル化は進んでいるものの、改善余地が数多く残されている大手金融機関。一般企業とは比べものにならないほど、安全性、プライバシー、危機管理の整備と実装を考慮しなければならないわけですから一筋縄にはいかないと思います。米国では銀行は顧客ロイアリティが低いビジネスとされている理由も、私たちの生活の合ったサービスが提供されていないからかもしれません。未だに小切手が出回っている米国特有の遅れもあります。
日本の銀行も徐々に便利になってきているものの、オンライン/オフライン両方で課題が残されています。Webサイトの管理がままならないですし、手続きも用紙にわざわざ書き込まないと始めることができないこともあります。銀行との付き合い方が多様になってきたからこそ、シームレスなサービスが必要とされていますし、デザイン思考は欠かせないアプローチです。それを実現するには、外注して納品されたものを使うという形より、小さな改善ができるような体勢を整えながら社内で設計/開発できたほうが良いと思います。
あくまで推測ですが、日本の企業でも今まで幾つもの『UX コンサル会社』がアドバイスをしてきたり、詳細な顧客調査をしてきたと思います。それでもなかなか変わらない(変われない)のも、人々のためのデザインを「ひとつの案件」として捉えるのが難しくなってきたからかもしれません。だからこそ、長期的に付き合える Adaptive Path のようなアプローチがひとつの答えになる可能性があります。
ただ、そうもゆっくりしていられないのが現在です。
組織の規模が大きい分、動きが鈍くなってしまった金融機関。出遅れている間に Simple や Moven のような、今までの銀行のイメージを覆したオンライン銀行がでてきています。大手金融機関に比べるとできることが少ないものの、スマートフォンで手軽に支出を追ったり、資産管理のアドバイスをしてくれます。テクノロジーとデザインを理解しているスタートアップは、従来の銀行が作り出した『穴』を徐々に埋めはじめています。動きが早くて小さい分、人々のニーズをいち早く察知して形にしているわけです。
しかし、大手金融機関には未来がないのかというと、そんなことはありません。
ひとつとして注目しているのが、大手は既にビックデータをもっている点です。「銀行をつかっているすべての顧客」というマスに向けたような従来のアプローチから「銀行をつかうあなたのため」にサービスを提供できる可能性が生まれます。ビックデータGoogle Trends をみても分かる通り、2011年から次第に注目を集めているビックデータ。銀行が既にもっているデータをデザインの視点から解析・分析することにより、大手にしかできないサービスが生まれるかもしれません。
「データを活かして顧客の価値をどのように高めるのか?」
これは銀行だけでなく、ビジネスを補助するデザイナーであればもっておきたい視点です。