The Daily

先週、iPad 専用の雑誌として注目を浴びていた The Daily が、12月15日で廃刊 になりました。創刊後、Web にプレビュー記事を公開したり、多デバイス化を進めていましたが、うまくいかなかったようです。

2 年前に iPad が登場して以来、紙の雑誌と同じような見た目にインタラクティブ性を加えた「タブレット雑誌」は幾つかでてきました。しかし、多くのタブレット雑誌の売れ行きは 印刷版の10%も満たない と言われており、複数バージョン作らなければならないコストに合うかどうか難しいところ。まだ伸び盛りのタブレット・モバイル市場とはいえ、そこまで出版社の体力がもつかどうか気になります。

創刊当初かなり話題になったので「The Daily」は短期間購読していました。雑誌のようにバラエティに富んだレイアウト、ビデオや写真がたくさん盛り込まれたコンテンツ、そこでしか読めない深みのある記事など、中身は未来の雑誌を感じさせる『何か』はありました。それでも廃刊になった理由は面白くなかったのではなく、「紙の雑誌」というパッケージングに捕われた配信モデルだったからだと思います。

大きなパッケージング、ひとつのコンテンツ

雑誌は、コンテンツを配信するためのひとつの形状です。様々なコンテンツをひとつにパッケージングすることで生まれた雑誌という形状。こうした形状を保っているのは、雑誌だけでなく、新聞、CD、TV番組などオフラインのメディアには多く見られます。オフラインで使えるテクノロジーをつかって、より多くのコンテンツをたくさんの人に配信するためには「大きなパッケージ」は必然といえるでしょう。

以前、変化する媒体、進化するクリエイティブ という記事でも紹介しましたが、内容、表現、広告モデルはパッケージングの仕方や特徴に大きく影響を受けています。

マスに配信するためのパッケージ
大人数に配信するためにバラエティに富んだコンテンツを用意
パッケージに最適化された広告モデル
紙のサイズやページ数に合わせた広告、番組の長さに合わせた CM
パッケージの特性に合わせた表現方法
見開きの広告であったり、固定サイズ(規格)に合わせた演出

大きなパッケージングが情報配信の主流だったのは、利用する媒体の特性(制約)がある結果です。そして、そのパッケージングに合わせてビジネスができるように広告モデルが形成されていきました。テクノロジーの発展によって、表現方法の幅は広がっていますが、「マスに配信するために大きくパッケージング」「パッケージの形状に合わせた広告」という部分は大きな変化がありません。

雑誌を例として挙げましたが、TV 番組にしても同様のことがいえます。番組が特定の時間でパッケージングされており、時間とテレビの形状に合わせて広告モデルが構成されています。こうした大きなパッケージングを作るという考え方は、従来のメディアにおいて当たり前だったわけですが、オンライン・マルチデバイス環境へ適応できていないように見えます。

利用者にとって丁度いい大きさとは

ホームページと呼ばれる大きなパッケージングされた世界へ訪れる時代から、RSS / RDF のような形式を介してコンテンツだけ抜き取って読む時代になりました。そして今は、ソーシャルという要素が加わり、様々な形式のコンテンツが小さく抜きとられた形で行き来するようになりました。ブログのような数百文字のものから、Twitter のような百数十文字、Facebook のような「イイネ」で終わる世界へと、コンテンツの単位が次第に小さくなってきています。

小さいということは Web において幾つかメリットがあります。

  • どこにでも配信される
  • いつでも見れる
  • 組み合わせがしやすい
  • 求めている部分だけ手に入りやすくなる

ネットワーク社会であるからこそ、自分の欲しい情報を手軽に入手できるコンテンツが好まれるのでしょうし、広がりやすいです。しかしながら、小さなお菓子コンテンツだけあれば良いのかというと、そうではありません。場合によって、ひとつのテーマに絞られていたり、誰かによって編集・編成されていることで価値が高まります。

今後の課題は、パッケージングが必要かどうかではなく、パッケージングの大きさを再考しなければならないという点です。従来のメディアの『当たり前』を引きずった大きなパッケージングでは、ますます人から離れた存在になるでしょう。

大きなパッケージング、小さなパッケージング、単体コンテンツそれぞれの特徴

配信についてもっと小さく考える

デジタルの強みは、従来のような形状に捕われることなく、もっと自由なコンテンツの形を提案できるところ。紙の雑誌風にしなくて良いですし、番組は 30 分であるという必要もないわけです。Web の黎明期は、従来のメディアを模倣することから始まったので、大きなパッケージングを保った「デジタル○○」がたくさん生まれましたが、テクノロジーの変化、消費者行動の変化に対応するために模倣ではない最適化が必要とされはじめてきました。

デジタル化によって、きめ細かな配信をしてもコストが極度に上がらなくなりましたし、読者は好きな部分を抜き取ってコンテンツを消費できるようになりました。

  • CD ではなく、ひとつの曲を
  • 雑誌ではなく、ひとつの記事を
  • ケーブルTVで多チャンネル購読ではなく、ひとつの番組を

従来のパッケージングを必要としないコンテンツ消費が当たり前になりつつあります。人の趣味・趣向がますます細分化してきているわけですから、オール・イン・ワンであることに不便と感じる方もでてきているかと思います。

コンテンツクリエーターや配信者側からすれば、パッケージングされた形で受け取ってほしいという想いはあるでしょう。しかし、人はもっと小さなパッケージング、もしくはひとつのコンテンツを消費・視聴したいと考えており、その選択肢を求めていることを忘れてはいけません。「これしか駄目」という状況をつくる分、人に届かなくなるわけです。

コンテンツを人に届けるための大きさ。大き過ぎると届かなくなる。

タブレット雑誌「The Daily」がうまくいかなかった理由のひとつは、従来の「大きなパッケージング」に固辞してところ。選択肢を十分に与えなかったことで、読者に届かないメディアになってしまったのだと思います。大きくパッケージングしたことで、従来のビジネスモデルに当てはめやすいメディアを作ることができたものの、消費者が求める柔軟性に対応できなかったわけです。

小さく考えるためのデザインの課題

コンテンツ配信を大きなパッケージングとして捉えているのは、コンテンツクリエーターや発行者だけではなく、制作者にもいえます。 Web には枠がないにも関わらず、固定形で世界観をつくる傾向がありますし、柔軟性がマルチデバイス時代で重要ですが、同じ見た目を保持することが優先というのが現状です。大きな枠組を装飾しているままであれば、人には届かなくなります。

小さなパッケージング、又は個々のコンテンツの配信をしやすくするためのデザインの課題は以下のとおりです。

小から大への思考へ
今までは大きな枠組みをつくって細部を作り込む形でしたが、今後は部品(小)をくって、大になるように組み立てるという考え方へ変化します。
デザインされた絵ではなく言葉をつくる
絵をつくっても再現性を見込むことはできません。絵ではなく、コミュニケーションの最小単位である言葉を作っているような意識が必要になります。言葉とはコピーであり、色であり、ボタンであります。
純粋な形状でコンテンツを管理
アウトプットはデバイスや状況に応じて変化しますが、『そのままの形』を残しておくと、今後の対応がしやすくなります。文章であればテキスト形式、製品写真であれば、装飾や文字がない写真を保持し、見た目に関わるマークアップや素材は別として切り分けるようにします。

小さく、シンプルな形で作っていくということは、その分早く作れますし、早く利用者に向けて情報発信できることを意味しています。また、方向転換のためのコストも抑えることができるので、予測不可能な今の時代には合った考え方といえるでしょう。上記のようなデザイン思考を実践するためにも、まずは「大きなパッケージ」をつくって配信するというメンタリティから自由になることがスタートになります。