dConstructで学んだWebの仕事に関わる責任
先週はイギリス、ブライトンを訪問していました。目的は dConstruct へ参加するためです。
あまり日本では知られていないイベントですが、今年で 10 年目になる Web と未来をテーマにした老舗カンファレンス。イベント開始当初は Web サイト制作寄りのテーマが多かったですが、ここ数年にかけてスケールが大きくなった印象があります。今年は「ネットワークに住むわたしたち」をテーマに、作家、キュレーター、プログラマーなど幅広い分野の方々が、Web の過去・現在・未来を語りました。
※ オーディオは MP3 でダウンロードすることができます。
難しいけど背けられないテーマ
長引く不景気、増え続ける監視カメラ、デヴィッド・キャメロン現英国首相への不信感 … こうしたイギリスの背景からなのか、政治色が強い内容が所々に見られました(とはいっても左右いずれかに寄った内容ではありませんが)。明るい Web の未来を築いていこうというより、知らぬ間にすぐそこまで来ているディストピアな未来への警告、そしてそこで我々が何ができるのかといった少し暗めなテーマもあったと思います。
- プライバシーはどこへ向かっているのでしょうか。
- セキュリティはどうでしょうか。
- 所有するという概念はどう変化するのでしょうか。
- 所有されることによる利便性と犠牲はどうでしょうか。
- 常時接続によって私たちの価値観がどう変わっているのでしょうか。
あるときは物語風、あるときは演説風、そしてまたあるときはビジュアル満載のプレゼンテーション。語り方も視点もそれぞれ異なりましたが、上記のような問いかけが緩やかに各セッションを繋げていた印象があります。
日本はもちろん、海外でもなかなか目にすることができないテーマを扱ったカンファレンス。ここ数年は「今すぐ役立つもの」を講演で話すように心がけているせいもあり、今回の dConstruct の内容はリフレッシングでありショックでもありました。
今回のようなテーマは、自分には関係ない、難しそう、関わりたくないという考えが先立って遠ざけてしまうことがあります。実際、明日から何か変わるものでもなければ、数年後ですら何も変わらないかもしれません。それでもあえて語り、イベントを通して会話が始まったり、視野を広げることが今の Web で何よりも必要なことではないかと思いました。
特に何かを作り出すことができる人であれば、考えるべきテーマです。
「利用者のため」という重い言葉
私たちデザイナーは「利用者のため」という言葉を好んで使うことがあります。シリコンバレー風のスタートアップだと「世界を変える」という言葉を使うことがあります。その言葉は純粋で素晴らしいですし、そのために試行錯誤を繰り返していると思います。しかしながら「利用者」「世界」が非常に狭い視野で語られているかもしれないとイベントを参加して感じました。
利用者のために使いやすくデザインしたり、本当に必要とされる機能やサービスを設計をするでしょう。お問い合わせ数や売り上げに貢献できるように設計もしています。こうした短期的な視点での「利用者のため」は必須ですが、それだけでは不十分だと思います。
作ったことによる社会的インパクト、人の行動や価値観への影響といった長期的な視点も欠かせないと思います。それは、たとえ小さな街の商店サイトを作っていたとしても同じです。ネットワークに繋がっている限り、私たちが作り出すものは、人々に多大な影響を及ぼしています。そして、それを忘れてしまうことによって、社会に負のかたちとなって表面化することがあります。デザインにも社会責任はあるわけです。
「低いWebリテラシー」「ソーシャルメディアでの負の拡散」「ツールの間違った使い方」など、様々な問題があります。これらは単に特定の企業がもたらした問題でもなければ、利用者のせいでもないと思います。私たちが「ただ作り続ける」「ただ儲ける」「ただ今を良くする」ということを繰り返してきた結果ではないでしょうか。
一般ユーザーが Web リテラシーが低いというよりかは、作っている私たちの Web リテラシーが低いから、使う側にも影響しているということはあるだろうね。
— Yasuhisa Hasegawa (@yhassy) September 6, 2014
楽しいもの、面白いものは、これからもどんどん作っていきたいですし、見たり使ったりもしていきたいです。ただそれによって失われるもの、見え難くなるものは必ず出てきます。そのなかには dConstruct で語られていたことも含まれているはずです。
何か明日から作り方を変えることもないですし、自分には何もできないと落胆することもありません。ただ、上記した Web が抱える課題について少し考える時間をもったほうが良いですし、機会があれば誰かと話すという時間をもつべきだと思います(ツイートしたり、ポッドキャストへ感想を送るのも OK です)。今の仕事には役に立たなかったとしても、Web の今と未来を語ることが、私たちの仕事の仕方に無意識的に影響するでしょうし、それが私たち個人ができる最大の貢献なのかもしれません。