デザイン原則を作るときに忘れてはならない「決める力」
いろいろ大事な価値観はあります。ただ、それらを「すべてが同じくらい大事だね」とソッと放置すると、デザインや実装で意見が大きく割れてしまう原因になります。
文脈で変わる『良い』デザイン
デザインシステムを作らなかったとしても、デザイン原則(Design Principle)と呼べるような「良いデザイン」の明文化をしておいたほうが良いです。
デザインは文脈によって「良いもの」にもなれば「悪いもの」にもなります。評価する人たちのなかで、共通の判断基準をもっていなければ話がまとまらないですし、デザイナーも何を作って良いのか分からなくなります。
「ノンデザイナーズ・デザインブック」のような書籍で書かれていることを実践すれば『良いデザイン』になるのかというと、Yes でもあり、No でもあります。見る側の視線や情報の流れを考慮しているかどうかを判断基準にするのであれば Yes になり得ますが、配信・運用のしやすさといった別の判断基準を加えると『正しく』作ったとしても No になる場合があります。
私たちがデザインを語る時、様々な『ファースト』に出会います。ユーザーファースト、コンテンツファースト、使いやすさファースト … もしかすると本音はステークホルダーファーストなのかもしれませんし、納得してプロジェクトを進めることができるかといったチームのモチベーションファーストの場合もあるでしょう。
私はどの『ファースト』も正しいと思っています。プロジェクトのスコープや、組織の成熟度によって変わる場合もあるでしょう。ひとりひとりが異なる価値観をもっているのは良いことですが、チームで働く場合は「どれが我々にとってのファーストなのか」共有する必要があります。
ある人は「アクセシビリティは重要だけど、ファーストというほど重要視していない」と捉えているなか、「ユニバーサルデザインにしていないのは何事か」と言っても話が噛み合わないわけです。評価する側が何を大事にしているかでデザインの良し悪しが大きく変わるのでデザイン原則のようなチームにおける良いデザインの明文化は不可欠になります。
デザインにおける優先順位は何か
デザインプロセス(プロダクトデザイン全般の進め方)の改善案件が多いせいか、「我々にとっての良いデザインは何か」を明文化するところから始めることは少なくありません。言葉やニュアンスを出し合うワークショップをしたり、作った原則を基にデザインの評価をするといったアクティビティをしていますが、気をつけていることは『ポエムになり過ぎないこと』です。
例えば「Be Unique (ユニークであれ)」という原則があるとします。なんとなくカッコいいですし、デザイナーのモチベーションに繋がっているかもしれません。ただ、何に対してユニークで、どれだけユニークであることがプロダクトとして正しいのか分かりにくいです。
もう少し分かりやすくするために解説文を添えたり、視覚化を試みる場合があります。こうしたアプローチは有効ですが、もう一歩具体性をもたせるために「何と比較して重要なのか」「何が基盤になっているのか」考えてみると良いでしょう。
例えば「ユニーク」「使いやすさ」という 2 つの価値観があるとします。どちらかを選ばなければならない場合、あなたはどちらかを選ぶでしょうか?
「使いやすさ」「売上」だとどうでしょうか? ユーザーニーズ、ビジネスニーズ、技術やリソースの制約も含めるとより複雑になります。選ぶのは簡単そうに見えるものでも、時と場合によって優先順位がつけ難いものがあると思います。
何が満たされていれば「Be Unique (ユニークであれ)」なのか考えてみるのも良いエクササイズになります。とにかくユニークであることを目指すのか。それとも競合が提供している機能 / 体験が揃っているという前提条件があってのユニークなのでしょうか。
この優先順位をきちんと守りましょう!とルール化することはないですが、チームメンバーがそれぞれどういう価値観(優先順位)のなかデザインしているのか知る機会はもったほうが良いと思います。もし大きなズレを発見したのであれば、原則の表現を見直したほうが良いでしょう。
デザインシステムは実装やオペレーションの話になりがち。UI ライブラリを作ってみることは良いスタートですが、「私たちにとっての良い UI デザイン」という共通理解と方針がないと、ただ組み立てるだけの部品集になってしまいます。
いろいろ大事な価値観はあります。ただ、それらを「すべてが同じくらい大事だね」とソッと放置すると、デザインや実装で意見が大きく割れてしまう原因になります。優先順位がなければ、いつまで経っても議論が終わらないですし、決めることも他人任せになってしまいます。
「△△も大事だけど、私たちは〇〇をあえて優先する」と言えることは何ですか?ぜひ考えてみてください。