デザイン思考の盲点

利用者への理解を深めながら新しいプロダクトやサービスを作り出すときにデザイン思考が役立つと言われています。異領域の人たちによるコラボレーションや試行錯誤を繰り返しながら完成に近づけるプロセスは、イノベーションの原動力とも言われています。日本でもデザイン思考を取り入れて新しい価値を生み出している企業が増えてきました。

私もプロトタイプをキーワードとして、デザイン思考を取り入れている人間のひとりではあるものの、デザイン思考による盲点が気がかなりになることがあります。

デザイン思考はプロダクトやサービスを作るための考え方・メソドロジーであるが故に、短期的かつ狭い視野に留まりがちになります。人のもつ課題や不満を解決するのは、プロダクトやサービスである場合も多々あるわけですが、時には社会構造、エコシステム、文化といった部分に注目したほうが効果がある場合があります。

例えば朝の満員電車で人が怪我して危険という問題があります。これを解決するためのサービスやプロダクトをデザイン思考を通して生み出すことができるでしょう。しかし、それより会社に同じ時間に行かなければならない規則であったり、朝オフィスにいなければならないという風潮を変えたほうが満員電車の根本の問題への取り組みになるかもしれません。

アプリデザインも同様に、デザイン思考の盲点があると感じることがあります。『素晴らしい体験』をアプリの中で提供したとしても、利用者の求めている根本の課題に応えているとは言い難いです。利用者は増え続けるアプリの管理に困っていますし、たったひとつのメッセージを見るためにアプリを立ち上げなければならないという不便があります。メソドロジーを実践したからといって、サービス・プロダクトのもつ根本的な課題が解決できるとは限りません。

デザイン思考が間違った考え方であるとは思っていませんが、他の考え方やメソドロジーと同様に万能薬ではないですし、どのような盲点があるのかは知っておいたほうが良いと思っています。

本当の問題解決に向けて

デザイン思考の盲点を指摘した理由は、良しとされる手法を用いても根本的な解決に繋がるとは限らないという点で、今の Web / アプリデザインと似ているなと感じたからです。デザイン思考という名のメソドロジーを用いて一時的な解決案を提供できたとしても、根本的な問題に取り組んでいないことがあります。

Web デザインでも同様です。
様々な手法やテクニックを採用することができますが、対クライアント関係やチーム構造の改変がなければ根本的な解決に繋がらないことがあります。

レスポンシブ Web デザインは、実は手法そのものはそれほど難しくありません(技術的に突っ込めばキリがないですが)。本当に難しいのは、レスポンシブに作るための考え方であり、クライアントとのコミュニケーションの仕方やワークフローを変えなければならない点です。手法ではなく構造への取り組みがなされていないので、真の解決に繋がっていない一例です。

理想かもしれないですが

社会構造、エコシステム、文化といった言葉をみて「それは理想論」「作る仕事だから関係ない」と感じた方もいると思います。

最近よく記事として取り上げている新しいワークフローについても「理想だけど無理」と考え方はいると思います。確かにそういう部分もありますし、読み手それぞれの仕事背景や立場があるので、そう考えても仕方がないかもしれません。

しかし「理想」といって一蹴できる状態に今あるのかどうか疑問だったりします。人と Web との関わりは多種多様化し、扱うハードウェアもソフトウェアもますます増え続けています。今まで当たり前だった価値観も変わりつつあります。仕事の関わる様々な要素が変化しているのに、今までそうだったからという理由で変えないのは他のビジネスと比較しても結果は見えているように思えます。

ここで、これから考えていきたい『理想』というのは、唯一無二なものでもないですし、今すぐできることのような短期的なものでもありません。どちらかといえば「Just an idea(ひとつのアイデア)」と言ったほうが適しているでしょう。それぞれの仕事環境に合った理想的な形があると思いますし、それには莫大な努力と時間が必要になります。

デザイン思考の実践にしろ、より Web らしい価値観を提供するにしろ、手法だけでは真の解決に繋がらないのではと感じています。すぐ実現とはいかないですが、それぞれの立場が考える理想について語り合い、考える時間や場所をもつことでスタートラインに立てるのではないでしょうか。結果的にそれぞれにとって気持ちのよいクリエイティブな場になるのではないかと思います。