行き詰まった時こそ「Disagree and Commit」で前進しよう
プロジェクトを前に進めたいのに、意見対立で足踏みしてしまうことがありませんか?議論だけが前進するための手段ではありません。時にはコミットが必要です。
前進するための『思い切り』
ここ数年、人や組織がどう意思決定をしているのかについて、色々な方法を調べたり実際に試してみたりしています。多様なプロセスやフレームワークがあり、参考になるデータもたくさん手に入る今、意思決定は以前よりもスムーズになったかと思いきや、そうでもない場合があります。特に、コンセンサスを重視する組織では、意思決定に時間がかかり、議論が長引くこともしばしばです。全員が納得するまで議論を重ねたり、根回しを繰り返していると、時間がいくらあっても足りなくなります。
多様な背景を持つ人々が集まる大企業での対応について調べていたとき、「Disagree and commit」という言葉に出会いました。チームメンバーが自由に意見を交換し、建設的な議論を通してより良い意思決定を目指す手法です。たとえ意見が対立しても、最終的に下された決定には全員が コミット し、協力して実行します。日本語では、「異論ありつつもコミットする」などと意訳できます。
この手法は、Intel の Andy Grove氏や Sun Microsystems のScott McNealy氏など、著名な経営者によって提唱され、実践されてきました。特に、アマゾンのJeff Bezos氏は2016年の株主でこの原則を強調し、アマゾンにおける意思決定の迅速化とイノベーションの促進に大きく貢献したと言われています。
Bezos氏は、アマゾンで Disagree and commit の実践に、次のようなアプローチを推進しています(参考記事):
- やり直しがきく決断は早くする: 判断には「双方向のドア(two-way doors)」そうでないものに分けて考えることができます。扉を一度開けてしまうと後戻りができない「one-way doors」でなければ、スピーディーに判断すべきだと問いています。
- 70%の情報のルール: 「大概の判断は、約70%の情報が集まったあたりで行うべきである」とベゾス氏は考えています。完璧な情報が揃うのを待っていては、タイミングを逃してしまいます。
- 本気の異論と誠実なコミットメント: 仮に自分の意見が採用されなくても、単に「周りが間違っている」と考えるのではなく、チームの決定に心から従う姿勢が大切だとベゾス氏は語ります。
「Disagree and commit」は、潔い考え方ですが、その成否はリーダーの資質に大きく依存します。リーダーが自らの意見に固執せず、異なる意見を公平に受け入れ、慎重に吟味する能力があるかどうかで、チームの雰囲気が大きく変わります。メンバーが意見を述べにくい環境を作ったり、異論を封じるための会話術に頼ることなく、注意深く進める必要があります。
前進するためにデザイナーができること
デザインの分野では、明確な答えが出せない場合があり、意思決定に時間がかかることも少なくありません。そんなとき、「Disagree and commit」の考え方が役立つシーンがいくつかあります。
リサーチの結果分析
リサーチを実施すると、様々な意見や解釈が出てくることがあります。このような場合、「Disagree and commit」を取り入れることで、多様な視点を尊重しつつ、深いインサイトを得ることが可能です。リサーチから得た結果に対して、異なる視点を交えながらも、結論へと導くための時間を設けます。様々な解釈が存在するのは自然なことですが、結論が曖昧なままでは、リサーチの成果を判断材料として活用できません。そのため、共に納得できる結論を出し、全員に共有します。
デザインコンセプトの検討
デザインコンセプトの検討時には、チームメンバー間で意見が分かれることがよくあります。制約をあまり気にせず、自由に多様なアイデアを出せる環境を整えることで、活発な議論が促されます。長期運用されているデジタルプロダクトでは、制約が避けられないものですが、コミットする段階になる前に過度に慎重になりすぎると、建設的な議論が困難になることがあります。大切なのは、様々なアイデアを出し合い、それらについて皆で話し合う機会を持つことです。
プロトタイプの評価
プロトタイプを作成しユーザーテストを行った際、異なる意見や評価が出ることがあります。明確な結果が得られない時、リクルーティングの方法、設問の質、シナリオの設計に問題があったのではないかという疑問が生じることもあります。これらの改善も必要かもしれませんが、最優先の目的はユーザー課題の解決です。特に、デジタルプロダクトは「two-way doors」として容易に改善が可能な施策が多いため、どのニーズにコミットして進むかを早く決めることが重要です。
考え過ぎて前に進めない?
「Disagree and commit」は、ビジネスシーンだけでなく、デザイナーにも有効な意思決定手法です。多くの場面でデータを基に施策の妥当性を証明する必要がありますが、データが揃っているからといって、常に正確な判断が下せるわけではありません。データや説得材料を集めても、それ自体には答えも意志も存在しません。私たちが意思を持って初めて、「実行する意味」が生まれ、物事は前に進みます。誰もが間違いを恐れ、その責任を負いたくないと思いますが、何も行動しなければ、成果も学びも得られません。前進が難しい時には、「Disagree and commit」を試してみてはいかがでしょうか。