デザインの合意形成にある落とし穴

あらゆることに合意が必要な環境は、全体工程が遅くなるだけでなく、メンバーの行動もどんどん消極的になっていきます。

デザインの合意形成にある落とし穴

合意がとれないところに時間をかけるべきか

会議などで時々「Consensus / コンセンサス」という言葉を耳にすることがあります。カタカナ表現によって意味が薄れてしまったのか、他の言葉を混同しているのか真意は定かではないですが、あまり多用したくない表現のひとつ。特にデザインプロセスにおいて、コンセンサスは足を引っ張る存在です。

コンセンサスの訳は「合意」。つまり、チーム全員が正しい判断した状態を指します。場合によっては合意していたほうが望ましいですし、合意をとるための議論を通して新たな視点が見つかる場合もあります。(カタカナ表現を使うかどうかはさておき)コンセンサスが悪いことではないものの、デザインにはあまり向いてません。

デザインは多くの場合、誰がどう考えても間違いない解決策は導くことができません。予算、時間、技術、人材、スキルはもちろん、利用者のニーズや文脈、プロダクトの成長ステージ、事業戦略など様々な要素を考慮した上で、最適だと考えられるアイデアを形にします。デザインのアドバイスがケースバイケースになりがちなのも、視点が変われば評価も変わるからです。

デザインは自然と議論が生まれてしまうものですし、どこまでいっても『間違いない答え』は見つかりません。

デザインの小さなディテールまで OK をもらえるまで議論をすることが、どれだけ意味があるでしょう。デザイナーとしてのコダワリや、制作スキルを上げるためのアドバイスといった観点であれば必要かもしれませんが、全体工程を遅らせてまで合意をとるべきなのか考えるべきです。

なかなか抜け出せない合意プロセス

日本の特性上、コンセンサスを重んじるがあまり、プロセスを遅くしてしまうことがあります。

書籍 「異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養」からの抜粋図
Netflix と日本でのコミュニケーションの仕方の違い

上図はエリン・メイヤーさんの著書「異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養」からのもの(原著からの抜粋)。Netflix のような米国発祥の企業に比べて、日本はコンセンサスを求める傾向にありますし、対立を避けるための『根回し』をすることもあります。こうした状況下だと、皆がデザイン案を合意するまで議論を繰り返したり、小さなグループで別の会議をする姿が目に浮かびます。

欧米に比べてコンセンサスへの意識が強いことを考慮すると、いきなり「合意しなくても前進するプロセスを実践しましょう!」と促しても前進してくれません。だからといって、合意できないところに合意プロセスを持ち込んでも着地がない議論を繰り返した後、消化不良の方が残ってしまうことになります。

コンセンサスを止める必要はないですが、使い所に注意が必要です。

合意のあるなかで承諾できる範囲を広げる

「Consensus / コンセンサス」と似た表現で「Consent / コンセント」があります。コンセントとは、誰もが反対意見を言わない状態(同意はしていないかもしれないが、納得できる)という意味が含まれています。日本語では、同意、承諾、許可と訳されるこの言葉。「自分はそうは思わない」と考える人がいるなか、「まずやってみよう」と前進できる考え方です。

コンセント(承諾)がある状態を作りには、何かしら判断基準が必要です。そして、少なくとも判断基準だけは合意が必要になります。合意が工程を遅くしていまう要因になりがちですが、承諾するための基準を合わせないと、何が正しいのか分かないので身動きがとれなくなる場合があります。

私が書くドキュメントにはよく「基本方針」という項目があります。方向性だけ早期に合意をとり、その先はチームメンバーで自由に発想・制作してもらうのが狙いです。その先の判断は合意した基本方針から大きくズレていないようであればスルーになるので工程短縮に繋がりますし、現場もいちいち確認をとる必要がないのでオーナーシップをもって活動しやすくなります。

合意と承諾の違いを表現したスケッチ

あらゆることに合意が必要な環境は、全体工程が遅くなるだけでなく、メンバーの行動もどんどん消極的になっていきます。進み方の『フレームワーク』になるようなことはきちんと合意をとりつつ、そのあとは承諾するかどうかの判断だけに留めることで、現場も少しだけ動きやすくなるはずです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。