ブレストの過信に注意しよう

デザイナーにとってブレストは馴染みの深い活動ですが、慣れていない人たちにとっては都合が良いとは限りません。

ブレストの過信に注意しよう

慣れている人にとって都合が良い活動

コラボレーション活動の一環でブレスト(Brainstorming)が行われることがあります。制約 / 正解を意識しなくて良い場を作ることで、幅広いアイデアが集まるのがブレストの魅力。「皆で考える」という活動を通して、新たな会話を生まれるなどチームビルディングの観点でのメリットもあります。デザイン思考の一部として紹介されることもあるので、デザイナーには馴染みの深い活動ですが、私がファシリテーションするワークショップではリアルタイムでワッとアイデアを出し合うブレストを避けることがあります。

ブレストの名付け親は広告代理店を経営していた Alex Osbornと言われています。クリエイティブな仕事をしている方が考案したこともあり、デザイナーなど様々なアイデアを出すことがプロセスの一部なっている仕事との相性は良いと思います。ブレストというグループワークをしていなかったとしても、ブレスト的な思考方法はデザインには欠かせません。よって、デザイナーにとってブレストは「分かりやすい」「慣れている」活動と捉えることもできます。

一方、合っている / 間違っている関係なく、とにかくアイデアを出し切るというプロセスに慣れていない(経験したことがない)方も少なくありません。「自由に考えましょう」と呼びかけても、すぐにアイデアは出てこないでしょうし、結論が見えにくい混沌としたプロセスに見えてしまうことで、前向きに取り組めない方もいます。

1987 年に発表された「Productivity Loss In Brainstorming Groups: Toward the Solution of a Riddle」によると、ブレストによってかえって生産性が落ちたという結果になったそうです。ブレストにある自由でオープンな場所が、かえってアイデア共有を消極的にさせてしまう場合があります。オープンな場を作ることで皆に平等な機会を与えているようにみえるブレストですが、ブレスト慣れをしているクリエイティブが優位になりやすい活動にも見えます。

だからといって慣れている人たちだけで行うブレストは、集団思考(Groupthinking)に陥りやすいです。似た人たちが集まることで、無意識に思考の幅を狭めてしまう集団合理化(Collective Rationalization)や自己検閲(Self-censorship)が発生することがあります。また、先にどんどんアイデアを出している方の意見に引っ張られることもあります。もちろん、症状を察知して解き放つのがファシリテーターの役割ですが、ブレスト慣れした人のアイデアが大半を占める状態のままで良いのかという疑問も残ります。

自分のペースでアイデアが出せる場づくり

ブレストの目的は様々な立場の方から幅広くアイデアを集めることなので、リアルタイムでワッとアイデアを出し合うことが最重要ではないと思います(雰囲気やその場の盛り上がりでアイデア出しが加速することもありますが)。クリエイティブな方でも、即興でいろいろアイデアを出すタイプばかりではなく内向的な方もいるので、ブレスト慣れしていない方が参加しやすい環境の用意とコミュニケーションが欠かせません。

私がリアルタイムのブレストを避けるときは、以下のような個人ワークができる時間と場所を作るようにしています。

  • 目的とアイデアの用途を事前説明する : すべてのワークショップの準備に言えることですが、お互いの時間の無駄にならないように、なぜアイデアを募集しているのか説明します。
  • ワークする場所を事前共有する : ワークショップ当日でようやく何をするか分かるのではなく、目的に沿ってどういうアイデアを出すのかイメージできるようにします。
  • 自分スペースを用意する : 参加者ひとりひとりが「自分の場所」と呼べるボードを設けて、そこでアイデアを発散してもらうようにしています。他の方のアイデアや、どんどん出している容姿に影響を受けずに自分のペースが作りやすくなります。
  • 事前ワークを推奨する : いきなり思いつかない方もいますし、当日までに忘れてしまうこともあるかもしれないので、いつでも書いても良いと伝えます。

幸い、最近は Miro をはじめとしたホワイトボードツールでワークショップをすることが多いので、非同期で情報共有がしやすくなりました。また、先述した「Productivity Loss In Brainstorming Groups」でも個人ワークをする時間を設けることを推奨しています。時間配分などワークショップの構成に多少の工夫が必要になりますが、参加者のなかには「焦らず自分のペースでアイデアが出せた」といった感想を言ってくれる方もいます。

もちろん、私のアプローチが万能とは言えません。リアルタイムのブレストを避けているのも、リモートワークが主流になってきているのと、リアルの場であった「皆で一緒にやっている感」を画面越しではうまく引き出せていないのが要因だと思います。皆でブレストすればアイデアが必ず集まるという過信もしたくないないので、状況の変化に合わせてこれからも工夫を続けていきたいです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。