私的ソーシャルを活用した電子書籍の作り方

先日、日本の Kindle ストアでも発売が開始された電子書籍「エクスペリエンス ポイント」。発売当初に制作の意図と大まかな過程について解説しましまたが、今回はソーシャルメディアをいかに活用して電子書籍を作ったのかを体系化してみようと思います。

今回の電子書籍は具体的に作り出す前から、長い下準備をしていました。電子書籍の制作自体はひとりで行いましたが、多くの方に関わっていただくことで、またひと味違う電子書籍のあり方をつくれるのではと思いました。以前 LEAF という対話のサイクル について解説したことがありますが、それを基に以下のプロセスを通して、少しずつ自分のコミュニティを確立させていきました。

Select(選出する)
知っておくべき読者は誰なのかを探し、彼等を集める
Listen(耳を傾ける)
彼等が何に反応するのか、何を求めているのかを観察する
Empower(力づける)
彼等にとって役にたつ情報やツールを一般読者とは別に提供する
Assemble(動員する)
彼等が何に反応するのか、何を求めているのかを観察する

このプロセスは、時系列に順に行うものというよりかは、各ステップが入り交じった進め方になります。例えば、Listen と Empower はひとつのペアとしてサイクルのように進めていきました。

いずれのステップも重要ですが、この中でも「Empower」は外せない要素です。Empower は私的 2011年のキーワード でしたが、今正に重要になってきています。利用者 / 読者を巻き込んで何かをする際には、キャンペーン的に短期的なお祭りをするより、長期的な関わりをもつ Empower が影響力が強いと感じています。

私の場合、電子書籍の計画を具体的に進める前に 1 年間ほど一部の『信頼できる読者』に対して別コンテンツを配信していました。このサイトで更新していない時も、彼等に対しては役に立ちそうな情報を配信しました。自分の Web プレゼンスにおいて、土台とも呼べるロイアリティの高い読者を見つけるだけでなく、彼等と繋がりを保つために、コンテンツを用意して付加価値を提供しました。細く長く続けた Empower が、行動に移る際に大きな価値を与えてくれました。

電子書籍「エクスペリエンス ポイント」は、発売前の1ヶ月前に β テストを行いました。一般公募もひとつの手段ですが、これでは β に積極的に参加してくれるかどうか分からないですし、信頼関係も確立されていないので、自分が求めている効果を得れるかどうか分かりませんでした。そこで、1年間コンテンツ配信をしてきたロイアリティの高い読者に向けて募集を開始。30 名の募集枠は、わずか 2 時間で埋まりました。


電子書籍β版のダウンロード数

最初の β リリースのダウンロード数は、88 回でした。これは、30 名の参加人数から考えると、大きな数値です。これは少なくとも 2 回以上ダウンロードしていることを意味し、複数のデバイスで確認・読書をしたいうことを意味します。合計で 3 回の β リリースがあり、回を重ねるごとに数は減りましたが、それでもデバイスの確認チェックや、参加に積極的な方がほぼ全員だったということが分かります。

積極的に参加することで、謝辞に名前が掲載されたり、無料で電子書籍がもらえるというプレゼントはありましたが、それだけでテストに参加されているわけではないのが、私のほうから感じられました。お金や製品というインセンティブによって一瞬だけ繋がりをもった関係ではないからこそ、β テストの高い参加率を実現できたのではないかと思います。

Empower によって築いた関係が Assemble という行動に移り変わった瞬間でした。

非常に時間がかかるプロセスですが、このプロセスがなければ、今でも顔が分からない Web 上の誰かに長い文章を書き続けているだけだったと思います。今は、サイトにコメントがなくてもグループでフィードバックを聞くことが出来ますし、誰が何を言っているのかも分かるので、対話もしやすくなりました。また、何か行動を起こしたときも、耳を傾け、一緒に動けそうな人も見つかりやすくなりました。また、内容によっては反応がゼロというのもリアルに分かるようになりました。

次の電子書籍を出すときに同じような手法で β テストを行うかどうか分かりませんが、自分のコミュニティの助けを借りれれば良いなと思っていますし、その日が来るまで、また感謝の代わりに付加価値を提供し続けたいと思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。