感情移入の邪魔をするエンパシーギャップに注意

「自分は絶対にそうしない」の正体

デザイナーであれば思いやりではなく感情移入ができるようになっておきたいですが、同じ立場になって考えるだけだと思わぬ落とし穴に出くわします。

ダイエット、新年の抱負、過労、セクハラなど、様々な方達のエピソードを聞いたときに「自分だったらそんなことはしない」「なぜそうなってしまったのか」と反応してしまったら危険信号です。それは、Empathy Gap(エンパシーギャップ)と呼ばれる認知バイアスの可能性があります。

エンパシーギャップには大きく 2 パターンあります。

  • 感情の高ぶりや非日常的な状況の影響力を過小評価してしまう状態
  • どのような状況でも客観的に分析・思考できると過大評価してしまう状態

例えば新年の抱負を考えるときは、真っ新な気持ちで様々なプランを立てると思います。しかし、日が経つと次第に宣言した習慣が続かなくなってしまうことがありますが、これもエンパシーギャップによる過大評価が原因です。ちょっとした状況の変化や気分によって行動が大きく変わることを考慮できていないパターンです。過去の経験を無視して、今年こそ!と真っ先に考えてしまうのもエンパシーギャップのひとつです。

デザイナーであれば自分がつくった成果物を過大評価してしまうエンパシーギャップがあります。これにより上手く使えないユーザーや反対意見に対して「分かっていない」「エッジケースだ」という結論に至ってしまいます。

ユーザーインタビュー(ユーザー調査)でもエンパシーギャップが発生する可能性があります。ただ、ユーザーに行動や考えていたことを聞くだけでは、「ターゲットユーザーにはないケースだ」と結論付けてしまうかもしれません。相手の文脈を理解するための一歩踏み込んだ質問が欠かせないのも、エンパシーギャップを和らげるためと言えるでしょう。

エンパシーギャップの対処法

人間である以上、認知バイアスを完全になくすことはできません。しかし、エンパシーギャップの存在を知ると知らないとでは大きな違いがあります。下記の 3 つを意識することでエンパシーギャップを少し減らすことができます。

  • 様々な状況を想像 : 周りにいる人や環境はもちろん、気持ちによって自分の行動がどう変わるか考えてみましょう。「絶対そんなことはしない」と思っていることでも、上司や親が近くにいたら … ?
  • 他の人がどう行動するか想像 : 他の人が同じ状況に対してどう接するでしょうか。想像に過ぎないですが、違う視点を得るヒントになる場合があります。
  • 過去を振り返る : 「自分だったらどうする」を考えるときに、過去を振り返らずに未来を予測する傾向があります。過去に自分がとった行動を振り返ることで、何が影響してそうなったのか見えてくるでしょう。

デザインはもちろん、調査には必ずバイアスが付きまといます。経験を積んでいてもバイアスは残りますし、受け手のバイアスによってうまく伝わらない場合もあります。まずは「私たちはエンパシーギャップと呼ばれるバイアスがあるかもしれない」という気付きから会話を始めてみてはいかがでしょうか。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。