みんなのwebになった10年代

この 10 年を振り返って大きく変わったのが、web が水と電気と同じように欠かせない存在になったこと。もちろん、それ以前から web は多くの方が使っていましたし、早い時期から web の可能性を信じていた人もたくさんいました。しかし、それでもパソコンという難しいデバイスを使うのが大前提でしたし、多少なりとも専門的な web の知識が必要でした。

少し敷居が高かった web の壁を完全に壊したのがスマートフォンの存在。日本では ソフトバンクモバイルが 2008 年に iPhone 3G を販売していましたが、本格的に普及し始めたのは 10 年代に入ってからだと思います。スマートフォンによって誰でも気軽に web へアクセスできるようになっただけでなく、web かどうかを意識することなく、コンテンツを消費したり作ることが可能になりました。

先進的な人たちだけのものではなく、みんなのものになった web。もう立派なオトナです。これによって web サイトやアプリをデザインする私たちに大きな転換期が来ました。

  • 昔から「ユーザー目線」という言葉はあったが、web アクセスする人がグッと増えたことでバリエーションがより広くなった
  • パソコンという制限の多いハードウェアから解放されたことによって、設計しなければならないインタラクションが増えた
  • 今まで以上に生活と密接な関係になったことで、ユーザーの文脈や環境を理解しないと作れなくなってきた
  • 使う人が増えたことでビジネスも本腰を入れ始め、デザインの成果・効果がより一層問われるようになった

みんなの web になったことと、『UX デザインブーム』は偶然ではなく必然として起こったことだと思っています。作る人が使う人という構図がある程度成り立っていた 2000 年代以前とは異なり、想像できていなかった人たちが想定外の使い方をすることが増えてきました。

生活に欠かせない存在になったからこそ、より一層責任のある仕事になった web / アプリデザインですが、私たちはその責任を背負う準備ができているのでしょうか。

デザインは嘘がつける

デザインには社会を良くするポテンシャルがあるのは、建築、インダストリアルデザイン、環境デザインなどあらゆる分野をみても明らかです。しかし、私たちがすることすべてが良いことであるとは限りません。使う人にとって良くないことを、素敵な見た目で覆い隠すこともできます。

2016 年にあったキュレーションメディア騒動はひとつの象徴的な出来事だと思います。配信元の企業や経営者の責任が問われましたが、「それっぽく」「いい感じに」見せていたのはデザインの力ではないでしょうか。Facbook, Twitter, Google のようなサービスの問題も、一部はデザインによって引き起こされています。日本のサービスでも、個人情報の扱いがあやふやだけど素敵な見た目で作り込まれたところは幾つかあります。

当たり前のように語られる「利用者目線」「課題解決」ですが、ここ数年この言葉の重さを痛感しています。

使う人だけでなく、作る人(作ることに携わる関係者)も増えたので、デザイナー視点のあるべき論だけでは簡単に流れ去ってしまいます。気づけば「仕方ない」「自分の責任範囲ではない」と呟きながら、『覆い隠すデザイン』を作ることになるかもしれません。それすら気付かず「良いモノ作り」と言って作り込んでいるだけという可能性もあります。

人々の生活に欠かせない web だからこそ、今まで以上にユーザーの立場・視点を理解し、必要であれば行動を起こす必要があります。しかし、私たちは行動が起こせる場にいるでしょうか。周りの人が分かる言葉で「No」と伝えているでしょうか。そもそも問題であることを理解するための知識を備えているのでしょうか。

それでもあなたはデザイナー

2010年代は、web / アプリデザインの責任範囲が広がり、形作るための知識やスキルもより深くなったと思います。大きく変わったところがあると同時に、2000 年代から大して変わっていないこともあります。「それでも私はデザイナー」でも指摘しましたが、より複雑な課題解決が求められるのにも関わらず、同業者視点の「クリエイティブさ」が話の中心にあるのは昔から変わっていないところです。

クリエティブはデザイナーのアイデンティティのひとつではありますが、みんなのものになった web のデザインをするときに、そこが中心にあるべきなのか分からないことがあります。「利用者目線」「課題解決」と向き合うとき、「クリエイティブ」という言葉が邪魔になることさえあります。

こんなこと考え込まないで、作ることに直向きになれば良いという意見も正しいと思います。ただ、それだけだと簡単に思いも寄らない方向へ進んでしまうのが、今の web / アプリのデザインで起こっていること。

より早く、より大きくプロダクトを成長させることが求められていますが、スピードが上がれば見逃すコトも増えていきます。課題解決でゆっくり考えるべきことを、短期的な事業目標の達成のために目をそらし、徐々にユーザーを追い詰めるデザインが出来上がる可能性があります。ただでさえデザインは『下請』のように携わることが多いから尚更です。デザインが重要視されていると言われていても、工程の後半以降にならないとデザイナーが現れない状況は少なくないわけです。

それぞれ異なる優先順位をもってデザイナーとして働いています。2010年代で起こった変化に対して、優先順位を見直す機会が年末年始の今だと思います。オトナになった web の話だけすると、もう良い感じの見た目を作るだけでは責任を全うしたとは言えなくなってきましたし、2020年代はそれがより色濃くなると思います。作ったものが人や社会にどう影響するか想像したほうが良いですし、それだけの力を今の web やデザインは持っています。

自分も少しばかり貢献できるように、ひとりのデザイナーとして今後も活動していこうと思います。