ユーザーという言葉に潜む5つの側面
U > X
抽象的なアイデアを話しているかのようにみえる「UX」ですが、意味をあやふやになってしまうのは実は「Experience (体験)」のほうではなく「User (ユーザー)」という部分にあるのではと感じています。「Webサイト」とひとことで表すものの、Webアプリケーション、Eコマース、コミュニティサイト、個人サイトと様々な種類があり、それぞれ人との関わり方が違います。Webでの操作は能動的なものが多く「User / 利用者」と表現しやすいですが、すべてが能動的な Web サイトではありませんし、能動的な行動にも幾つか違いがあります。
使うといっても、Webアプリケーションを操作する方と、Eコマースを訪れる方は見所が違いますし、自分がした体験の評価の仕方も異なります。つまり、UX について語るとしてもどのような人たちに何を提供したいのかという前提を共有していないと、「よい体験を」なんていうえらく抽象的で当たり前のような回答しか出てこないこともあります。「U」なくして「X」はないわけです。言葉では User と単純に表していますが、単なる利用者としてしか言葉を捉えていないとすれば、場合によっては場違いな体験を提供しているなんてこともあり得えるわけです。
「U」のなかにある5つの側面
サイトもひとつにカテゴライズ出来ない場合があるように、そこへ訪れる方達も明確なタイプの振り分けは出来ません。一元化は出来ないものの、訪れる方達のもつ様々な側面を把握することによって、どういった体験を提供することが優先なのか課題が見えてくる可能性があります。
利用者
Webアプリケーションやサービスを使っている方。彼等にはタスクを達成させたいという明確な目的があり、タスクを達成させるために具体的な行動をとります。
よって、彼等に対しての体験はタスクを中心に検討する必要があり、インターフェイスデザインもタスクから拡張して組み立てていくといいでしょう。タスクの達成するまでの道筋がいかに明確なものなのか、そしてそのタスクの邪魔になるようなものがあるかないかで印象が変わってきます。繰り返して利用する場合があるので、覚えやすいかどうかも課題です。
観覧者
動画やプロモーションサイトをみて楽しむ方。彼等はサイトを訪れているその時間を楽しく過ごしたいことを目的としており、役に立つ、効率的という部分で評価をしません。コンテンツを観覧する前からある程度の期待をもっており、たとえ多少待つ必要があっても待つことがあります。
彼等の期待に応えることが出来るコンテンツがあるかどうかだけでなく、感情にどれだけのインパクトを与えてくれるかという点も観覧者にとっての評価対象です。楽しむのは1度きりという場合がおおいですが、サイトを通して受けた感情が大きければ大きいほど他の人にも伝える原動力になります。
消費者
モノやサービスを購入する方。品揃えはもちろんのこと財布を開いて購入したいと思える情報がそこにあるかどうかが評価の対象になります。彼等の期待は販売しているブランドだけでなく、競合サイトのサービスを利用したときの体験にも関係している場合があります。期待に応えることが出来なければ購入はしませんし、次回は別のサービスへ切り替えることもあります。
彼等にとってサービス自体の善し悪しが問題ではなく、自分が支払っただけの価値を得れたかどうかによって評価が変わってきます。もちろんここでいうサービスとは Web サイトだけでなく、その企業が運営する電話でのサポートなども含まれます。お金と体験が最も密接に繋がっているといえるでしょう。
探訪者
なんとなく目的が自分の中で見えているものの、ピンポイントの場所を見極めることが出来ず、探し求めている方。目的のものが見つかるまでの道筋を極力短く、かつ明確に示すことが課題。明確なひとつの答えを示すだけでなく、幾つかの提案をするというアプローチもある。また、見つからなかった場合にどのような補助が出来るかを考えることで、評価に大きく関わることがあります。
明確ではないものの『探す』という具体的なアクションがあるので、その行動に対して邪魔になるような要素は省く必要がありますし、補助出来るものがあれば導入を検討していきたいところです。
放浪者
目的はないものの、おもしろいもの、役にたつもの、楽しいものをなんとなく探している方。購入・利用・観覧といった目的を得るチャンスをどのように提示するかが課題になります。クリックして次々にみるというよりかは、その場でどれだけの情報をみることが出来るかも放浪者には扱いやすいでしょう。訪問者がたくさんの情報をスキャニングできるような情報配置の工夫が必要になります。
ユーザーという言葉の意味を共有する
今回5つの側面を洗い出してみましたが、考えていくとさらにいろいろな側面が出てくる可能性があります。ペルソナを作るという手法もありますが、今回紹介したようにサイトを訪れる方達の大まかな側面を把握し、どういった方へ向けてサイトを作っているのかを共有しておくだけでも違いがあるでしょう。作り方にも影響するでしょうし、どういった部分を評価するのかが見えてきます。
私たちが何気に使っている「ユーザー」という言葉。この言葉のもつ意味は使っている人それぞれで違うことがありますし、その違いにより完成するサイトの展望も異なることがあります。コンセプトワークやブレインストームをするというプロセスは様々なアイデアを考え出し洗練させるだけでなく、言葉の共有をしていくためのプロセスではないかと考えることがあります。情報共有をしなければならない言葉は幾つかありますが、「ユーザー」はプライオリティが高い言葉といえるでしょう。