課題解決の視点を伝え方にも活かしていこう
メリットがメリットにならないとき
「〇〇は古いから新しい△△のほうが良い」
「今は△△であるべきなのに、なぜ変えないのか」
自分が信じるやり方への想いが強いと上記のような論調になりがちですが、残念ながらこうした言い回しで「よし、では変えてみよう」と思う方はほとんどいません。例えば「web デザインで Photoshop を使うより、XD をはじめとした他のツールの方が良い」と言って新しいツールのメリットを伝えることがありますが、あまり効果的ではないと思っています。
今までのやり方より新しい手段のほうが良い、といった伝え方には下記の問題があると思っています。
- 故意ではなくても相手を否定しているように聞こえてしまう
- 伝えている本人にとって得するようにしか聞こえない
- 結局、従来のやり方がその人にとって楽
メリットを伝える時、ツール・手法・プロセスにおけるメリットを伝えるのは単にスペック(仕様)に近いもので、それが何であるかを説明しているのに過ぎません。伝えている側は一所懸命「ここが良いんです!」と説明していたとしても、聞き手からすれば「すごいですね。で?」になります。伝える側の熱量が高ければ高いほど、受け取る側とのギャップはより大きなものになるでしょう。
これはあらゆるコミュニケーションで言えることです。デザインの仕事でも下記のような課題に取り組んでいる方はいると思います。
- 新しいツールを導入したい
- UX デザインプロセスを自社で取り入れたい
- アクセシビリティについてもっと知ってもらいたい
- デザインの価値・効果を伝えたい
自分の視点で魅力を伝えたり今までのやり方の問題を伝えても、相手は納得してくれません。仕事のコミュニケーションでうまくいかない理由のほとんどは、聞き手にとってのメリットを提示せず、相手のやり方を否定しているようにみえてしまうからです。
誰にとっての課題解決なのか
2017年から全国数カ所で実施している「デザインの伝え方ワークショップ」でも話していますが、伝える相手にとってのメリットでなければ、それはメリットとは呼べません。相手が何に困っているのか。何を実現したいと感じているのか。そして、何を重要視しているのかといったマインドセットを理解することが伝え方において重要です。
例えばプロダクトマネージャー(PM)にユーザー調査をしましょうと提案するとします。そのときに「今まで知らなかったユーザーの声を聞くことができます」「きちんとユーザーを理解した上でプロダクト開発できます」では少し弱いわけです。PM の立場からすれば、コストをかけることで周りから期待されている成果が出せるのか不安ですし、優先順位を上げたい案件は山のようにあります。調査をするからといって開発を止めるわけにもいきません。
プロダクト開発に何かしら良い影響をもたらすユーザー調査ですが、ただユーザー調査のメリットを語っても『あるべき論』にしか聞こえません。PM が抱える直接的な課題を解決する手段としてユーザー調査を提案しなければメリットに感じてもらえないでしょう。
自分の好きなモノ・コトを熱く語るタイミングは必要ですが、それだけだと同じ視点を持っている人しか集まりません。少しでも広く伝えたいときは、相手が抱える課題の解決方法として自分の提案が適切か考えると響き方が大きく変わります。
『ユーザー視点のデザイン』というのは単にアプリや web サイトを使う方達だけのことを指すわけではなく、私たちが仕事に関わる人すべてと思ってと捉えるとコミュニケーションの仕方がほんの少し変わるかもしれません。
9月11日に開催されたAffinity User Group JAPANミーティング #2は、Affinity ソフトウェアをテーマにこの記事の内容を話したものの、これは Adobe XD, Sketch, Figma などあらゆるツールで共通の課題だと思っています。デザインツールはデザイナーの一部のような存在だからこそ伝え方には気をつけていただきたいです。まず「何に困っているのだろう」という伝える相手への興味が共通項を生み出すキッカケになるはずです。