脱ダミー文字から始めるコンテンツデザイン

ダミー文字はリスク

ユーザーは読まないと言われているものの、言葉はユーザーとコミュニケーションをするための基盤です。流し読みでも理解できるような設計がされているか。次のアクションへ結びつく動機が提供されているかは、言葉で決まることがあります。ビジュアルが注目されがちな UI デザインですら言葉が重要なデザイン要素になります。

デザインはコンテンツの価値を増幅したり、利用者の欲求を満たしたり目的達成の補助をするためにあります。もし、ダミー文字をつかってデザインすることは、ユーザーとのコミュニケーションを破棄した状態で彼等がもつ課題を解決しようとしているようにみえます。デザイナーはダミー文字をもっと敵視しても良いと思います。

ダミーの情報を入れるのは簡単です。Loren Ipsum のようなジェネレーターがありますし、日本語でも似たようなものはあります。今は文字だけでなく、ユーザーアイコンをはじめとしたダミー画像生成サービスも多数あります。これらは非常に便利ですし、こうしたサービスを利用することで早くデザインが提出できるというメリットもあります。しかし、便利さに甘えることで、作り手にとって都合のよいデザインを作ったり、様々な重要な課題を後回しにしていることがあります。

コンテンツにおける理想と現実

  • 利用者が求めている情報が適切に表記されているか?
  • 次の行動へ移るために重要な情報量が提示されているか?
  • どれくらいの長さの文字が入るか?
  • 長さが異なるコンテンツが並ぶとどうなるか?
  • 誰が書くのか?その人はどれくらい書く能力があるのか?
  • CMSやガイドラインで制定しているルールはあるか?
  • 言葉のトーンはどのような感じか?

コンテンツを考慮しないデザインは実装だけでなく運用も難しくします。制作の早い段階から実際につかうコンテンツがあるのが理想的ですが、そういったことはごく稀です。そこで、以下のような方法を用いて『本物に近いデザイン』を考えるようにしています。

自分で書く

私は優秀なライターではありませんが、バージョン 0.1 になるような文章を自ら書くことがあります。まずこちらから提案することで、具体的にどのようなコンテンツを入れたらいいのか、どういったトーンがふさわしいのか考えるキッカケを与えてくれます。正にコンテンツ版プロトタイプのような存在です。

現存コンテンツを流用する

Web サイトやアプリが既に存在する場合は、現存コンテンツを利用してデザインしています。最も現実的なコンテンツの見え方になるだけでなく、運用面での課題をみつけるのに役立ちます。

競合のコンテンツを使う

社内共有・非公開であることが条件ですが、自社ですぐに使えるコンテンツがない場合は競合のものを利用することがあります。実際つかうコンテンツとして流用しないように注意を払う必要がありますが、自社コンテンツを考えるキッカケを与えてくれます。

これらはジェネレーターや「あああああ」と書くのに比べると手間がかかります。しかし、ちょっとした手間がコンテンツを「あとで流し込むもの」ではなく「ユーザーとのコミュニケーションのためにあるもの」という考え方に変えることができます。コンテンツをあとで考えることは様々なリスクを伴うので、こうした小さな工夫を重ねて少しでも早く考える機会をつくると良いでしょう。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。