Louis C.K. とネットプロモーションの挑戦
Louis C.K.というアメリカのコメディアンがいます。人や社会を皮肉な視点で描写しつつも、そのストレートなコメントがおもしろく聞こえるという点では George Carlin に似ているところがあります。そんな彼が最近 Web を活用して興味深い実験を行いました。
日本のお笑い芸人と同様、アメリカのコメディアンもライブの模様を DVD で販売しているわけですが、先日インターネットで個人販売を始めました。5ドルでしかも DRM なし。購入したらすぐに彼のライブを好きなデバイスで楽しむことが出来ます。
個人販売といっても6つのカメラで撮影され、プロによって編集された本格的なライブ作品。販売を始めてから3日間で 500,000 ドルの売上を記録。チケット販売である程度、映像制作のコストはまかなえているそうですが、Web サイトのシステム構築などを含めたコストもデジタルダウンロードを通してカバーしているだけでなく、利益にもなっているそうです。
彼の声明によると、大手メディア企業に映像を売り払ったほうが手間もかからないし、利益もあるそうです。しかし、値段は 20 ドルくらいに上がるだけでなく、DVD なので観覧する方法が限られてしまいます。リージョンコードや DRM といった不便も視聴者に与えてしまう点では、個人でデジタルダウンロード販売をしたのは意義があることだと言っています。
彼は今、アメリカで最もホットなコメディアンのひとり。そんな彼だからこそ出来た部分はあるものの、今よりさらに売ることが出来た可能性はあります。Web サイトと Twitter からのメッセージ だけでここまで出来たわけですから、さらに広げることが出来そうですね。
- アプリとして販売したとしたらどうなるか
- 映像制作だけでなく、アプリ開発まで余裕があったかどうか分かりませんが、iTunes Store や Android Market のようなプラットフォームから買うほうが楽と考える方もいると思います。また、ランキングを通したアピールがあるのが利点です。3日間で 110,000 のビデオを販売したわけですから、これがトップアプリとしてストアに表示されていたら効果は絶大です。
- オーディオ版を広く販売する
- 個人で映像を販売するチャンネルがまだ少ないですが、音楽(オーディオ)であれば幾つか選択肢があります。例えば Tunecore を使えば、iTunes や Amazon をはじめとした 8つの異なる場所へ手軽に配信することができます。今後 Netflix のような場でも手軽に配信できるようになれば大きな転換が起こりそう。
- 公式の Facebook ページをつかった配信
- Twitterで発表した際に数多くの人に RT されたみたいですが、Twitter はその一瞬しか盛り上げるのが難しいツール。人それぞれのペースに合わせて情報を届けたり、知り合い同士から徐々に広げていきやすい点では Facebook のほうが適しています。アメリカのコメディアンなのでアメリカ人が多くいるところで情報発信をする利点もあるでしょう。
- Twitter を利活用
- Twitter で発表したときの効果は絶大でしたが、その後に続くメッセージが少ないのが気になります。使われていないアカウントも多いでしょうし、フォローしている人全員が彼のメッセージに耳を傾けているわけではないですが、頻繁な更新が次に繋がる場合もあります。
2年前に「 トレント・レズナー流マーケティング論」を紹介して以来、数多くのミュージシャンや映像クリエイター達が Web を活用してプロモーションを行ってきました。有名人だから成功したものもあれば、認知度がなくても自分たちでお金を稼いでいる人もいます。Louis C.K. のダウンロード販売はその流れに続くものであり、特に目新しいことはありません。ただ、影響力がある人がこうしてまた一人、Web を活用し始めた点では今後のメディア配信の行方がまたおもしろい時期に来たのかもしれません。
ただ、今回感じたのが Web という広大な場に自家製のストアを置いても頭打ちしやすいという点。DRM がないのはアーティストとしての主張ですし、それに賛同する人もたくさんいます。しかし、独自の操作を要求される Web サイトから PayPal を使って映像をダウンロード。そのあと、自分が使っているメディアプレーヤーに入れて管理するといった一連の作業が発生します。これが面倒・分かり難いという理由から購入を諦めた方もいるかもしれません。
Web 上にただ載せるのではなく、多少閉じられてはいるものの、購入の敷居を下げてくれるマーケットプレイスを使った方が効果があるのかもしれません・・・たとえそれが DRM 付きだったとしても。
ひとりでも多くの方に聞いてもらいたい/見てもらいたいというのであれば、手段を選ぶことはないと思います。たくさんのツールとサービスから配信して、人に見てもらう機会を作るべきです。しかし、いざ販売ということになると、選択が難しくなります。「本当はこうしたい」と配信側が思っていてもプラットフォームがサポートしていないといった弊害もあります。弊害は今後も残ると思いますが、敷居は次第に下がってくるのは確か。大手のマーケットプレイスは次第に開かれてきていますし、Amazon や Netflix のような Web サービスも、次第にメディア企業のような振る舞いをし始めました。Amazon や Netflix のような新しい種類のメディア企業が個人や小規模の配信に新たな力を与えてくれる日が近づています。
【Update】
12月22日のニュースによると、ダウンロード販売の売上が100万ドルを超えたそうです。一部はチャリティーに寄付するとのこと。