今必要とされている時間を作るためのデザイン
集中できる時間が少ない現在
今の仕事で最も難しいのは、集中できる時間を作ること。作るためのツールは充実していますし、一緒に作ることができる優秀な人も周りにいます。いろいろなものに恵まれていたとしても時間を作ることは簡単なことではありません。1 日 24 時間が、突然 32 時間にはならないわけです。
時間は有限であるのはもちろんですが、その貴重な時間を有効に使うのは非常に難しいです。特に集中するのが難しい時代に生きています。誰かが声をかけるくらいなら良いですが、メール、チャット、ソーシャルメディアなど絶え間なく注意を引こうする通知が鳴り続けています。たとえ通知をオフにしたとしても「あれはどうなっているだろう?」と、ついついスマートフォンを開いて画面を再読み込みしたり、スクロールを続けている方は少なくないはずです。
The Telegraph が 2015 年に公開した記事によると、私たちは年間 759時間も時間を無駄にしているそうです。およそ1ヶ月分の時間を、通知などのアラートによって失っている計算になります。ソーシャルメディアを見た後、すぐに仕事に集中することができればそれで良いのですが、人間の脳はそう簡単にスイッチは切り替わらないようです。
カリフォルニア大学アーバイン校が発表した「The Cost of Interrupted Work: More Speed and Stress(PDF)」によると、邪魔が入ってから集中力を取り戻すまで 23 分かかるそうです。中断させられる出来事が多いと、まったく集中できないまま 1 日が終わってしまう可能性もあるわけです。
意識的に集中できる環境を作らなければ、いつの間にかソーシャルメディアや動画を見て過ごしているということになりかねません。そもそも自分はどのように時間を使っているのか知ることも重要です。例えば RescureTime や Timing のようなアプリを使えば、自分が何に時間を割いているのか把握できますし、様々な情報をひとつにまとめて視覚化してくれる Exist も便利です。
道具に頼ってばかりいられないですが、集中しやすい環境を作る手助けをしてくれるアプリもあります。
- Forest : 森を育てるというゲーム感覚の要素が含まれた『自分時間』をつくるアプリ(iOS/Android/Browser)
- Offtime : 時間によって通信やアプリ利用の制限をかけることができる(Android)
- Time : 時間のトラッキングだけでなく、人工知能(AI)による時間の使い方提案もある(iOS)
- Ananda : 集中力が上がる BGM が付いたトラッキングアプリ。関連アプリの中にはマインドフルネス用のもある(iOS)
時間を作るデザイン
滞在時間や再訪問・再利用を増やすことは、Web サービスやアプリのゴールになることがありますが、見方を変えれば利用者の貴重な時間を減らしている場合もあります。人々の生活を改善するためのデザインが、時間という現代人にとって最も貴重なリソースを奪っているわけです。「もっと使って欲しい、見て欲しい」という作り手の考えが、利用者の生活リズムを揺るがしていることもあるわけです。
数々のサービスが私たちの時間を奪い合っているわけですが、時間を作っているサービスも幾つかあります。例えば Uber のボタンひとつで乗車できるというコンセプトは、タクシーへ問い合わせたり待つ時間をなくしてくれました。今まで時間がかかっていたことがゼロになることで、他のコトをする時間が増えるわけです。こうした人々の時間を作るサービスは今後ますます重宝されるでしょうし、今集中できる時間、質の高い時間を提供できるデザインが必要とされています。
小さな機能や演出を通して時間を作ることも可能です。例えば Gmail のようなサービスは、通知を一定期間オフにしたり、相手に不在通知を送る機能がありますが、これもお互いの時間を無駄にしないための工夫です。私のサイトでは記事タイトルの下に必ず概要を入れるようにしています。長い記事を最後まで読まないと分からないのではなく、最初の数行を読めば内容が把握できるようにするための工夫です。最後まで読んで「なんだそんなことか、時間のムダだった」と読者が思われないようにするためにしています。他にもパフォーマンスを上げることによって時間を作ることもできるでしょう。
Web サービスやアプリにしてもそうで、たくさんの時間を過ごしてもらうことだけでなく、利用時間を減らすためにできることも考慮すべきだと思います。それは製品の評価や、利用シーンの仮説にも盛り込んでおきたいところです。
まとめ
常に何かの邪魔が入る現在の仕事現場において、集中して仕事をする時間を持つことは何よりも貴重なことです。それを確保するのは簡単なことではありませんが、デザインが解決しなければならない課題と捉えることができると思います。人々の時間を奪うことを製品の成功指標と捉えるのではなく、彼らの時間を作るためには何ができるのか考えることは、時間がないと日々追われている私たちにとっては価値のあるものになるはずです。