NASAのマニュアルからデザインシステムを学ぶ

NASA Graphics Standards Manual

Web サイトやアプリのデザインにおいて、再利用可能な部品(UI)をカタログしたスタイルガイドが必要とされています。公開されてから次のリニューアルまでデザインが変わらないという状況はまれですし、即座に対応しなければならない場合もあります。制作時は想定されていなかった要素も出てくるでしょうし、対応できる技術が変われば、コードから見直しも考えられます。変わり続けるのはコンテンツだけででなく、デザインにも同様のことが言えるわけです。

Web サイトやアプリといったデジタルプロダクトだけでなく、紙媒体やソーシャルメディアなどあらゆる場でデザインの一貫性が求められています。そうした場合、フロントエンド寄りのスタイルガイドだけでは不十分で、ロゴ規約や書体の扱い方などデザインに関わる様々な素材・ツールを揃えた何かが必要です。デザインSDKのようなもの。特定のデザイナーに知識やスキルを集約させない、拡張性と柔軟性を可能にするデザインシステムを作ることが、デザインの運用に欠かせなくなります。

幸い Material Design のような参考になるサイトがありますが、もっと以前からデザインの『システム化』を試みた組織があります。デザイナー Richard Danne と Bruce Blackburn が 1975 年に作成した NASA Graphics Standards Manual は、組織でデザインを広めていくためのヒントがたくさんあります。 マニュアルには、グリッド、書体の指定、ロゴマークを配置する場所の規定など、デザインの知識がない方でも分かるように詳しく解説されています。

マニュアルは PDF でダウンロードできますし、書籍としてとっておきたい方はマニュアルの復刻版を購入することもできます。

単にロゴの扱い方が書かれているだけでなく、ロゴを通してデザインの指針、そして NASA のあり方が書かれているマニュアル。デザインガイドラインであり、デザインの原則が書かれているわけです。

個人的に前書きに書かれている以下の文章が印象的でした。

In order to succeed, a program which departs from the accustomed must have the full support of every NASA employee. Top-level management must take the lead, our experts in the field of graphic design must follow, and all of us must see that the specifics are diligently monitored to insure that standards of excellence are maintained.
このマニュアルの成功には、NASA 従業員全員のサポートが欠かせない。上層部はこれを基に先導し、専門家はこれに従ってデザインをしなければならない。そして、我々全員で標準化の向上と維持に励まなければならない。

UIデザインパターンにあるヒトとコトの課題でも指摘しましたが、「こんなふうに決めたから、ルールを守ってください」といったかたちでガイドラインを公開しても組織で広がらないどころか、現場で使えない成果物になる可能性もあります。課題共有をしたり、言葉を合わせるといった基本的なところから徐々に始めていかなければいけません。NASA のマニュアルに「従業員全員のサポートが欠かせない」と書かれているのも、そういったボトムアップの働きかけが必要というメッセージが秘められているのではないでしょうか。完成するまでの過程をを共にすることがデザインには必要というのが分かります。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。