ネガティブ体験を軽減するデザインアプローチ

色眼鏡

過大評価されがちな悪い体験

心理学で Nagative Bias(ネガティブバイアス)という概念があります。不快な感情、苦痛な思い出といったネガティブな経験は、ポジティブな経験より私たちの考え方に大きな影響を及ぼすというものです。言い方を変えるのであれば、ポジティブな体験は私たちの記憶や今後の行動に及ぼす影響は少ないということになります。たとえ、全体的に良い体験だったとしても、最期に悪い体験をした場合、私たちの記憶には「悪かった」と残ることがあります。ネガティブバイアスとは、負の要素を『拡大・拡張』してしまう状態といえます。

アプリストアのレビューが低くなりがちなのも、ネガティブバイアスの影響があります。問題なく普通に使えたという体験は、記憶に残ることは少ないでしょう。しかし、自分の思うようにいかなかった場合、たとえ他の機能が問題なく動作していたとしても「悪い」と考えてしまうことがあります。「この部分だけ良くないけど、他は満足」と評価する人はわずかです。

一度「悪い」と判断してしまうと、ひっくり返すのは非常に困難です。そのあと改善されたとしても、ネガティブバイアスによって「どうせ悪い」という判断を下すことがあります。

早急対処で変わる物事の見方

なかなか拭い去ることができないネガティブバイアスですが、対処を早くすることで緩めることができます。Customer Experience Matters が 2014 年に発表した「What Happens After a Good or Bad Experience」というレポートによると、悪い体験をした人へのカスタマーサービスが早ければ、その後もっと製品・サービスへお金を支払うそうです。

悪い体験をそのままにしておかず、すぐに解決策や回避する方法を提供することで製品・サービスへの見方が変わることがあります。カスタマーサービスの充実や、ソーシャルメディアで反応をするのはもちろんですが、デザインによって解決できることも幾つかあります。

404ページを工夫

私のサイトで提供している404ページは、読者が記事へ辿り着きやすくするために幾つかのオプションを提供しています。多くの場合、読者の意図に反して表示されるのが 404 ページですので、そこから早急に復帰できる手段を提供するようにしています。

404画面は機能的なサポートだけではなく、ブランドを見せる良い機会になることがあります。例えば MailChimp の 404 ページは、大きな検索ボックスやナビゲーションがあるので機能的に使えますがそれだけではありません。マスコットのチンパンジーを大きく採用することで、会社の文化やサービスの雰囲気を表現しています。

MailChimp 404 画面

方法を幾つか提供する

あまり Web やアプリを使いこなしていない人だと、ログインするのに必要なのがユーザー名なのかメールアドレスなのか分からないことがあります。サービスによって方法が違うので、無理はないかもしれません。これは「ログインできない」というユーザーのストレスに変わることがあります。

それを回避する方法を提供しているのが Twitterのアカウントを探すページ。メールアドレス、電話番号、ユーザー名どれを入力しても自分のアカウントを探すことができます。もちろん、ログインするときもどれでも使うことができます。ひとつの手段だけでなく複数の手段を提供することでエラーの割合を低くしています。

Twitterのアカウントを探す画面

理解しやすいエラーメッセージを書く

エラーは様々な状況で発生します。エラーを利用者に伝える際に、専門家しか分からないエラーコードや、「接続できませんでした」といった原因どころか対処方法も分からないメッセージでは、混乱するどころか製品・サービスの評価が下がる恐れがあります。

専門用語は極力避けて、何をすれば次にエラーを避けることができるのかが分かる具体的なアクションが書かれていることが理想的です。好例なのが Dropboxの会員登録フォーム。メールアドレスを入力の際に「@」を書き忘れると、「@ が抜けていますよ」というメッセージが表示されます。ユーザーに対してエラー(間違い)と言っていないのも好印象です。

Dropboxの会員登録フォーム

@forestkさんの指摘によると、上画面はinput type="email"を基に Chrome が出しているメッセージのようです。こうした設計がアプリケーションでしてあるのは素晴らしいですね … ということで別の例を紹介。

Gmailの会員登録画面にメールアドレスを入力する項目がありますが、こちらにピリオド(.)を二回連続で入力すると「ピリオドが連続で続くユーザー名は登録できません」というエラーが発生している要因が具体的に書かれています。

Gmail登録画面

空白画面をなくす

Pocketアプリ画面

製品・サービスの良し悪しが一瞬で決まることがあるので第一印象は良いものにしておきたいところ。しかし、ユーザーのインプットが必要とされる CGM アプリだと、最初は空白状態。デザイナーが考える理想の画面には程遠いことがあります。使い始めたばかりのユーザーが、このまま使い続けてくれるために空白画面を避けて第一印象を向上しなければいけません。

例えばあとで読むアプリ Pocket では、ユーザーがまだ何も保存していない状態のときに、具体的に何をすれば良いのか提示しています。左上のメニューからもアクセスできる機能ですが、初めてのユーザーの対して次のアクションをいち早く提示しています。

まとめ

悪い体験は良い体験より人々の記憶に残るだけでなく、絶対的評価になることがあります。たとえ、数週間後に改善されていたとしても「どうせ悪い」というバイアスがかかってしまいます。

これを回避するためには、迅速な対応が不可欠になります。カスタマーサービスやソーシャルメディアでの反応はもちろんですが、デザインで解決できることもあります。負の体験が起こりうる場で、すぐに回避する方法を提示することで、ネガティブバイアスを緩めることができます。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。