ジャーナリズムから学ぶユーザー課題の伝え方

「大切なことが伝わらない」のは、どこにでもある悩み。UXデザインと気候変動ジャーナリズムは異なる分野ですが、学べることが多いです。

ジャーナリズムから学ぶユーザー課題の伝え方

伝わらないと悩むところは多い

UXデザイナーやUXリサーチャーから、ユーザーの課題を優先的に取り組めない、または課題を伝えても理解されないという相談を受けることがあります。デザイナーを含め、多くの人がユーザーに価値を提供したいと考えています。しかし、価値観の違いや事業の優先順位により、意図が伝わらないことがあります。特に大きな組織では、このような悩みを耳にすることが多いです。

デザイナーだけでなく、異なる分野の専門家も「大事に思っていることが周知されない」という悩みを持っています。例えば、気候変動に関するジャーナリズムの分野では、災害の報道だけでは読者の関心を引きにくく、報道の優先順位も低いことが課題とされています。

この問題に取り組む一環として、2022年1月に The Oxford Climate Journalism Network(OCJN)が設立されました。記者、編集者、写真家、ファクトチェッカーが集まり、気候変動の報道について議論しています。最近、OCJNが公開した記事には、重要な情報が周知されないと悩む人々にとって有益な情報が掲載されていました。

Two years, 400 journalists and 50 climate experts: Here’s what we learnt about how to report on climate change
14 takeaways from the Oxford Climate Journalism Network.

過去2年間の活動を振り返り、気候変動に関心を持ってもらうための方法を14項目にまとめています。その中から、デザイナーにも参考になるアドバイスをいくつか紹介します。

経験者と新人の視点をバランスよく

組織の判断構造や人間関係に詳しい経験者は、どのように伝えれば良いかを知っています。しかし、経験者だけに頼ると、視野が狭まり、新しいアイデアが生まれにくくなる恐れがあります。新しい視点を持つ新人と協力し、伝え方を工夫することが大切です。

信頼されるコミュニケーターを特定する

多くの人は、知識があり、馴染み深い天気予報アナウンサーからの情報を信頼し、安心感を得ることがあります。人が変わるだけで伝わり方が変わることは少なくありません。自らユーザー課題を伝えるのも良い手段ですが、組織内で影響力のある人物を特定し、その人を通じて重要な情報を伝える方が効果的な場合もあるでしょう。

リサーチと分析を先取り計画する

台風や干ばつなど、定期的に起こる気候変動関連の災害に対して、事前のデータ収集や分析が行われるようです。このアプローチはUXリサーチにも応用可能です。事業戦略を策定するタイミングが決まっているため、その時期に合わせてどのような情報を伝えるか、また、分析結果を活用するためにいつから準備を始めるべきかを計画することが重要です。

身近なテーマとの関連付け

気候変動の記事は、健康や労働者の権利など、気候変動に関わる広いテーマを扱います。UXもユーザーのニーズをただ伝えるのではなく、組織に興味や価値観と組み合わせて語ると伝わりやすくなります。

記事でも例としてあがっているエジプトでの気候変動の報道の取り組みは興味深い事例です。エジプトの特産品であり、人々に親しまれているマンゴーの味が変わってきていることを、気候変動の課題を伝えるきっかけとしています。こうした伝えたい相手の興味と繋げるアプローチは、プロダクトデザインにも応用できると思います。

もちろん、定量調査による数値の変化を示して興味を引く方法もあります。しかし、マンゴーの味の変化のように、定性的な違いを伝えることも大切です。チームメンバーが気にしていること、不安に思っていることは何でしょうか。これらを裏付ける情報があれば、それをきっかけにして、ユーザーの声を伝えることも可能です。

リーダーシップの関与を促す

ボトムアップの活動は速やかに進行することが多いですが、組織全体に浸透させる過程で頭打ちになる傾向があります。これが「理解されない」「優先順位が上がらない」という問題の一因と考えられます。気候変動の問題も同様で、リーダー層を巻き込んだワークショップなど、意思決定者の共感とサポートを得るための活動が欠かせません。

活用している人に焦点を当てる

問題の提示だけでなく、うまくいっていることを伝えることも大切です。気候変動の報道も、根本的な解決に至っていなくても、現場でさまざまな試みを行っている人々の取り組みが紹介されています。同じく、ユーザー課題を伝える際には、その課題に対してプロダクトを改善できている組織内の人々を紹介することで、モチベーションの向上につながります。

燃え尽きないような支え合い

リサーチャーやユーザーと直接接する機会がある方々は、「困っている人を前にして、自分には何もできない」と心を痛めることが少なくありません。災害を取材するジャーナリストも、トラウマやバーンアウトを避けることは難しく、彼らのメンタルヘルス対策のための支援やコミュニティが存在します。社内外に関わらず、経験や悩みを共有できる相手がいることは、次の活動への活力となります。

他分野にヒントはある

UXデザインと気候変動ジャーナリズムは異なる分野ですが、学べることが多いです。「大切なことが伝わらない」というのは、どこにでもある悩みかもしれません。組織が大きくなると、意思決定に直接関与できないことが増え、多様な価値観が交錯します。UXデザインやUXリサーチの情報収集だけでは価値が偏り過ぎて解決のための決定打が見つからないこともあります。そうしたときは、ジャーナリズムやマーケティングなど、他の分野でどのような話題が出ているかを注目してみてはいかがでしょうか。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。