自由になったWebの情報と広告について

先日、某紙媒体の企業が定期的に開催している勉強会にゲストスピーカーとして参加させていただきました。紙媒体でのビジネスが中心ですが、豊富なコンテンツを揃えた Web サイトを長く運営しているこの企業。去年から社外の方を招いて今後の Web での展開を模索するために勉強会を開いているそうです。Webサイト制作だけでなくマーケティングに近い分野まで広げて講演をすることがあるので、こうした制作に特化しないところで話が出来て非常に有意義でしたが、同時に訪れた企業のビジネスモデルについて知識をもっているわけではないので、どこまで伝えることが出来るか不安でもありました。

勉強会での詳細は紹介出来ませんが、そこで感じたことを書き残しておきます。

自社の領域を示す囲みがないWeb

紙媒体だけではなくテレビにもいえることですが、コンテンツをパッケージング出来ることがひとつの特徴です。コンテンツ配信者側が考える最適なビジュアルと情報の分量をコントールし、そのままの形を視聴者に届けることが出来ます。当然、こうしたパッケージングの概念をもちいて成功している Web サイトは少なくありませんが、利用者と Web の関わりはひとつにパッケージングされた世界だけでは留まりません。

サイト、ページというパッケージングされた概念も徐々に失われつつ、その中にあるコンテンツ(情報)が自由に行き来するようになりました。技術がそれを可能にしているだけでなく、利用者の姿勢や態度もサイトを訪れるという考えから、必要なタイミングで必要な分量の情報を取得するという考え方にも変化しています。ひとつの情報ソースだけではなく複数の情報ソース(第1ソースから友達の意見まで)を読むこともありますし、様々なアプリケーションやデバイスを切り替えて見るということもあります。

コンテンツ配信者側としてはパッケージングしたほうがコントロールがしやすいです。もし紙媒体から仕事をしている方だとしたら「Webサイト」という領域を築いて、その中でいろいろしてもらうという考え方のほうが分かりやすいモデルだと思います。しかし、Web では情報が自由に行き来するという特性があり、それを意識しないで作ることは将来、利用者から忘れ去られる可能性があるでしょう。

そのため、近年情報サイトはソーシャルメディアを利用して情報の断片をサイトの外に配信(開放)して、読者に直接届けるというやり方を実施しています。「情報の流れの変化を意識したウェブ戦略」で AP の Facebook 利用について紹介しましたが、極端な話、AP 読者の中には AP のサイトにほとんど訪れていないけど、AP というブランドを身近に感じている人がいると思います。

もうひとつ、自社の領域(パッケージング)という考え方がきっかけになる課題として、自社ですべて技術やサービスを開発して作らなければならないという考えに陥ることです。予算と人材がいればそれでも良いのですが、アウトソースが出来るのであれば積極的にしたほうが予算削減だけでなく、セキュリティの向上につながる場合もあります。課金システムにしてもショップにしても、自社技術/サービスでないということは数パーセントのインセンティブを払うことにはなるでしょう。しかし、インセンティブと人件費を含めた費用を比較するとどうでしょうか。

誰でも頭ではコスト削減で効率化というのは分かります。しかし、それだけで簡単に移行出来ないことがあるのが人。パッケージングという考えからどう離れるかというのも課題ですし、コスト削減で効率化とはまた違う視点から見た理由付けや目標が必要だと感じています。

広告モデルの再考

情報が自由に行き来するという Web の特性と、ひとつの囲いに留まらせて特定の場所を見てもらうという Web 広告。これら2つは少し相反する関係にあります。情報が様々な場所で見られるようになり、接点はたくさん生まれているものの、広告モデルは従来のように紙媒体から借用した形です。トップページ(雑誌で言えば表紙や目次)が広告料が一番多いというのは、紙の感覚でいえば自然かもしれませんが、Webではそうでしょうか。Webサイトの種類にもよりますが、情報サイトであればあるほどトップページより個々のページのアクセス数が多いわけです。

今の広告モデルでは Web の特性を活かした情報配信がし難く、しがらみを作っている可能性すらあります。

もちろん、この分野は表現も含めて常に進化をし続けています。今後、コンテンツとアクセス解析とさらに密接になった広告価値の測定方法も確立されていくでしょう。それがページビューだけではなく滞在時間、ページ経路など様々な要素が考慮されるでしょうし、「One for All」的なマス広告ではなく、AdSense のようなコンテンツに応じた細分化広告が主流になるでしょう。

マイクロペイメントや購読モデルが高い注目を浴びていますが、広告も含めていずれかが主流になるというのではなく、どれも重要になるはずです。AdSense をはじめとした高い技術が出揃って来てはいるものの見せ方がスマートではない場合が多いと思います。他の収益モデルと同様、広告もさらなる進化を期待していますし、Web にとり最適化された見せ方の模索が今後さらに増えてくるでしょう。

background photo taken by Helga Weber

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。