2010年は LOST が終わった年であったと同時に、8シーズン続いた『24』が最後を迎えた年でした。独特のストーリー構成と早い展開で人気を呼んだ番組だったので、見た方も少なくないはず。途中からマンネリ化してしまったところがありましたが、革新的な番組だったと思います。独特なストーリー構成だけでなく、映画並みのアクションと俳優を揃えた TV シリーズは出た当時は他にありませんでしたし、日本では海外ドラマブームの火付け役だったかもしれません。

『24』は CTU という架空の反テロ機関で働く捜査官達の姿を描いた一種のスパイ番組。スパイ関連の番組といえば過剰なアクションと爆発シーンは欠かせません。そしてもうひとつ欠かせないシーンといえば、ハイテクガジェットの操作かもしれません。命令をするだけで欲しい情報は思いのままに手に入るし、キーボードを数秒間叩きさえすれば犯人を割り出すこともできます。最新のスマートフォンを使わなくても情報のリアルタイム通信も難なく行えます。そんな大袈裟な演出が多々ある『24』の後に登場したスパイ番組が『Rubicon』です。

Rubicon は先述したような派手なアクションもなければ、コンピューターもほとんど出てこないスパイ番組です(パソコンは一応出てきますが、なんとグリーンスクリーンの旧モデル)。API という架空のシンクタンクで働くアナリスト達が、書類と写真に埋もれながら現場で働く諜報員がするべき次の行動を決めていきます。膨大な情報から関連性を導き出すために同僚と議論したり、ひとりの人間を暗殺することに悩み続けるシーンもでてくるなど、従来のスパイ番組とは真逆な展開がチラホラ。スパイの華やかさではなく、諜報活動の泥臭さや人間臭さを全面に押し出している印象があります。

もちろん Rubicon はアナリスト達の1日を追うだけの番組ではありません。API で働く主人公のウィルが、恩師の死がきっかけに全米を揺るがす大きな陰謀へと徐々に飲み込まれていくというのがメインストーリーです。『大統領の陰謀』をはじめとした 70 年代の陰謀説映画から影響を受けている部分が多々あり、主人公が心理的に追いつめられていく姿も丁寧に描かれています。確認はとれていませんが、Michael C. Ruppert が 2004 年に刊行したノンフィクション『Crossing The Rubicon: The Decline Of The American Empire At The End Of The Age Of Oil』にも少々かぶっているところがありますね。

幾つものサブストーリーが展開し、最初のほうは謎だらけなので退屈してしまう方がいるかもしれません。特に従来のスパイ番組のような派手なアクションやコメディタッチの要素もないので全体的にトーンが暗いですが、シリーズが進むにつれて慣れてきますし、その雰囲気が番組の質を高いものにしていると感じるはずです。俳優陣も個性派・演技派ばかりなので、彼等の演技のぶつかり合いを見るだけでも楽しめます。派手さがない分、繊細さが光っているような気がしますね。

派手なスパイ番組もいいですが、データの断片を繋ぎ合わせて意味のある情報を組み立てるための苦悩を描くという心理的なスパイ番組もいいですね。番組の設定を含めて『24』が 911後に登場したのはなんとなく必然だったのかなと思います。そんな『24』が終わり、Rubicon のような番組が出て来たのはひとつの時代の終わりであり始まりなのかもしれません。

残念ながら Rubion はシーズン1で打ち切りになりました。次のシーズンまで続けることで作り上げた世界観が陳腐化してしまう恐れがあるので、それはそれで良いかなと思っています。13エピソードとコンパクトにまとまっていることですし、ひと味違う深みのあるスパイ映画を見てみたいという方はぜひお試しください。