テラハウス訪問で考えた教育のこと仕事のこと
先日、東中野にあるテラハウス ICAキャリア開発研究所の見学に行きました。テラハウスは再就職訓練を実施している施設。東京都産業労働局には職業能力開発センターや職業能力開発校といった組織がありますが、テラハウスは民間委託訓練施設に属します。教務部長の金澤さま、キョウリツネットの新井さまと牧原さまにお時間をいただいて、職務訓練の現場について、そして教育する側からみた Web の仕事についてお話を伺いました。
再就職訓練という一度社会に出ている方を対象にして短期間で Web の仕事ができるためのスキルを教える場。3ヶ月の授業と1ヶ月、Webサイト制作会社にてインターンとして働くことが出来るカリキュラムになっています。週に5日の授業はトータルで360時間ありますが、その間に「使う拡張子はなに?」から具体的なワークフローの実践まで幅広く学ぶわけですからかなりハードです。しかも Photoshop, Illustrator, Dreamweaver, Fireworks, Flash とソフトウェアの使い方も一通り学ぶわけですから私だったら頭が混乱しそうです。ここでしっかり知識を吸収した生徒さんの中には大企業に就職された方もいらっしゃるそうです。
現在、不景気ということもあり入校希望者も去年に比べかなり増えているそうで、特に Web 関連のコースを希望される方が多いそうです。入校志願者の倍率は8倍なので大学に入るより難しいほど増えているとか。人気の要因は分かりませんが、Web の仕事があるのか気になるところ。以前ある人材派遣会社の方の話を伺ったところ、Webの仕事も今年に入って下がってきていると言います(グラフィック系はもっと前からだそうです)。再就職訓練はひとつの教育のフィールドで特殊なところがありますし、独自の課題を抱えていると思います。しかし、話している間に専門学校や社内教育、そして教育ではない Web サイト制作の仕事現場にもいえる共通の課題も見えてきました。
Webサイトデザインとは何だろう?
最近改めて考えさせられる点のひとつです。「印刷デザイン」という言うくらいあまりにも大雑把で広過ぎる表現なので考えると気が遠くなるのでしょうね。
企業サイト、チラシのような1枚ページ、アニメーションを豊富に使ったプロモーションサイト、情報サイト、ショッピングサイト、Webアプリケーション、ブログ・・・どれも Web デザインです。それぞれ「Webサイト」として存在していますが、誰に向けて作っているのか、どういう見方 (使い方) を想定しているのか、サイトの成長の仕方、Web全体との関わり方がそれぞれ異なります。これを今「Webデザイン」とまとめて教育しているのが現状でしょう。
興味深いことに、作っている Web サイトの種類によって同じ言葉も使い方が若干異なることもあります。プロモーションサイトにおける「ブランド」はビジュアルの扱い方が話題の中心になります。それに対し、ソーシャルメディアやブログを使ったコミュニケーションデザインを考えている方は、利用者との対話としながら自分たちが顧客に出来る約束を提示することを「ブランド」と考えるでしょう。両方ともブランドに関わる考え方ですが作っている立場によって強調するところが変わると思います。それが完成品にも反映されています。
同じ Webデザイナーとか言っても捉え方や考え方が違うのは、作っているサイトが違う種類だからという点が大きいでしょう。どちらかが正解ということでもありません。ただ、Web という大きな視点で見たときに何か共通してあるべきデザインはある気がしますけどね。それは単にクリックが出来るとかいうレベルではなく・・・。
このように、ひとつの言葉にしても捉え方が違うわけですから、Webサイトデザインを学ぶといっても大変なことです。 入学したときに、どのような Web サイトデザインを目指すかを明確に分かっている人はいません。学びながら見えてくることですし、仕事をして初めて分かることすらあります。しかし教える側としては短期間でこの気の遠くなる「Webデザイン」を実践的な形で教えなければならないというミッションがあります。
この記事のように延々と概論を話しているわけにはいかないわけです。現場でも同じことがいえるでしょう。考えてないで作れということになっていないでしょうか。そうしなければならない状況はあるでしょうけど、それでは仕事ではなく作業ですよね。教育でも実践と概論のバランスはとても難しい課題のようです。
ギャップを埋める方法はある
業界間や専門家の間に「ギャップがある」という言葉はよく聞きます。今回、お話を伺った際でも「ギャップ」という言葉が何回か出てきました。テラハウスでは生徒の派遣先になるような制作会社を常に探しているそうですが、見つけ難いそうです。制作会社のほとんどは公式のWebサイトはありますが、作品事例だけではなく、そこで働いている人がどんな人たちで、どのような人材を求めているのかが分かるコンテンツがなかなかなく、見つけ難いという結果になっています。
スタッフの募集でもなければ、どのようなスキルセットをもつ人を求めているのかは知ることは出来ません。しかし、どのような職場でどのような人が何を考えて仕事をしているのかということは常に出せる情報ではないでしょうか。それがブログなのかもしれませんし、Twitter 経由で発する短い言葉なのかもしれません。又は気になるサイトを淡々とブックマークするだけでも良いかもしれません。重要なのは作品という過去のカタログではなく、その人がどのような姿勢で仕事をしているのかという「今」を知らせることだと思います。
私たちは物理的な空間のギャップを持ちながら仕事をしているのは確かです。しかし、ネットではそのギャップがあやふやです。情報発信さえしていれば思わぬとこで誰かに出会う機会が存在しています。自分が届けたいと思っている人たちへ最初は届かないかもしれません。しかし情報を発信し続けること、そして届けたいと思っている人たちにとって有益なコンテンツ、又は思いがあれば必ず届きます。ネット上においてはギャップは作られたものではなく、自分たちで作っているものと考えても良いかもしれません。
情報が来るのを待つのではなく、こちらから能動的なアクションをするという姿勢をもつことは教育をする側、される側、そして仕事をしている人それぞれ必要です。コミュニケーションをとることは時に面倒な作業ですし、目先の利益にもならないことが多いです。能動的なアクションは時に勇気が必要です。たくさんのエネルギーがなければ出来ないこともあるでしょう。
短期では分かりませんが、中長期という少し長い目でみれば、情報発信することは自分にとっても職場にとっても業界にとってもポジティブなことといえるでしょう。