成熟期に入ったUIデザインとデザインシステム

先進的から最適化へ

3年前、Facebook が今までのニュースフィードを完全に変えた「Paper」というアプリをリリースしました。ネイティブコンポーネントが使われていないオリジナルの UI とインタラクション。今までありそうでなかった新しい操作方法を提案していました。Paper をはじめ、様々な実験的なアプリを Creative Labs としてリリースを続けていましたが、2015 年にラボは閉鎖され、その半年後には Paper も配信停止されました。

今でも Things 3 for iOS のように新鮮な UI とインタラクションが生まれる場があるものの、あまり見かけなくなりました。今のアプリ UI デザインは、目新しいものを作るより、今まで培われたノウハウを基に使いやすさ、見やすさを磨き上げるフェイズに来ています。斬新なアニメーションと目新しい形状のメニューを作るより、ガイドラインにある Tab Bar / Bottom Navigation を実装したほうが開発しやすいですし、利用者も迷わず操作ができます。

これは、アプリ UI デザインが成熟期に突入していることを意味しています。数年前はスマートフォンという『新しい技術』をどう扱えば良いのかハッキリしていなかったので、多くのデザイナーや開発者が模索を続けていました。その中で Paper のようなものが出てきましたし、Clear のようにジェスチャーだけで操作するアプリも代表的な例でしょう。

アーリーアダプターに向けて模索を続けていたアプリ UI デザインも、スマートフォンが一般の方へ普及してきたことにより状況が変わりました。多くの方が使えるような配慮。小さな改善ができるような柔軟性と拡張性。既存の知識ですぐに使い始めることができる装いが求められるようになりました。

Facebook Creative Labs の閉鎖 1 年前に Material Design が発表されたのは、最適化のフェイズへ向かっている象徴的な出来事です。Material Design は、過去のノウハウを活用してとりあえず使えるアプリを早く作るためのガイドラインです。こうしたガイドラインがあることで、デザイナーはいち早くプロトタイプを作って画面設計を共有しやすくなりましたし、PDCA サイクルのなかでの持続的な改善もしやすくなりました。

UIデザインの成長とSカーブ

最適化のためのデザインシステム

近年、デザインシステムの導入が加速しているのも、UI の実装に多くの時間を費やすのではなく、最適化を繰り返すことができる土台を固めて早く動ける体制が求められているからかもしれません。事実、デザインシステムを公の場に出しているのは、十分な機能が実装された成熟したアプリばかりです。

多くのユーザーを抱えているサービスであれば、斬新なインターフェイスを提案するより、今ある価値を高めたり、コンバージョンを上げるための模索を繰り返すほうが優先だと思います。早く、きめ細かく動くには UI デザインの責任をひとりのデザイナーに任せるわけにはいきません。誰がやってもある一定水準の UI デザインができるようにするには、デザインシステムのようなものが必要になるわけです。

成熟期に入ったアプリ UI デザインの今は、新しいものを作るというより、最適化を繰り返すものになりつつあります。それをつまらないものと捉えることもできますが、デザイナーの仕事が終わることはありません。スマートフォンという小さなスクリーンを超えた視点でユーザー体験を考えることに時間を費やさなければいけないでしょう。サービスのあり方と、利用者との関係を抜本的に見直して提案することもあるかもしれません。様々なプラットフォームやデバイスを通して、良い体験を提供するのは大きな仕事です。

それでもやはり新しいものを作りたいのであれば、ボット、音声、ウェアラブルVR / ARといったフロンティアが目の前に広がっています。ベストプラクティスと呼べるものが少ない『無法地帯』ですが、だからこそ模索がしやすい分野でもあります。いずれの場合でも新しいチャレンジがあるので、デザイナーにとってエキサイティングな時代だと思います。

まとめ

デザインシステムは、ある特定のクリエイティビティを制限するものです。まったく新しい UI を作るということは激減するでしょうし、そこに自分のクリエイティビティを活かしたいと考えるのであれば、デザインシステムはつまらない存在です。しかし、利用者の視点からだと、ちょっとした見た目の違いが、「使いにくい」という言葉に入れ替わることがあります。複数人のデザイナーが携わることで、ちょっとした違いが大きな違いになってしまいサービスとしての一貫性を失うこともあります。組織の成長、アプリの成熟のためにはデザインシステムのように中央集権化できる何かが必要になるわけです。

UI デザインの基本的なところは、コモディティ化(日用品に近いもの)になってきています。機械化が進めば、その領域はどんどん広がることになります。UI デザイナーが必要なくなるということはないですが、作っているアプリの成長が今どのあたりにあって、組織が何を目指しているかでデザインの進め方を変えたほうが良いでしょう。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。