顧客ロイアリティをあげるための8要素

近年、ページビューといったマス視点の数稼ぎではなく、ひとりひとりの利用者にどのようにリーチして関係を作るかといった部分が注目されています。それはEコマースだけでなく、コンテンツサイト、そして私が運営しているような個人サイトでもいえることだと思います。また次も訪問してもらうためには何が必要なのでしょうか?コンテンツ (製品やサービスを含)があることが必須ですが、他に何があるとロイアリティを上げることができるのでしょう。Webデザインという視点からみても幾つか提案できることがあります。

2002 年 Journal of Retailing に掲載された「Customer loyalty in e-commerce: an exploration of its antecedents and consequences (PDF)」という記事 には、顧客ロイアリティを上げるためには8つの要素が絡んでくると解説しています。随分昔の記事ですが、ソーシャルメディアと騒がれている今にも通じる重要な点が挙げられています。

カスタマイズ
サービスや製品のカスタマイズだけでなく、利用者に合わせた情報を提示することで、見つけやすくなるだけでなく製品/サービスとの距離がより近くなります
顧客とのインタラクション
顧客をサポートするための情報やツールが充実しているかによって、利用者に一度に提供できる情報量も大きく変わります。必要な情報は常にそこにあり、即時に対応できる状態をつくることも含まれています
教養
顧客にとって的確な情報の提供するだけでなく、製品・サービスへの理解を深めるためのキッカケをつくります。顧客への教養が2度目の訪問に繋がり、ひとつの購買サイクルが生まれます。
ケア
サイト訪問から購入が完了するまでの道筋がきちんと整備されているか、何か壊れているところ改善するところがあるかといったケアが行き届いているかどうか
コミュニティ
サービス・製品から生まれたコミュニティは口コミの原動力。個人がひとつのグループの一員であるという感覚がもてるキッカケにもなります
選択肢
敷地に制限がない Web だからこそ今まで以上の選択肢が求められます。様々な場所にいかないと手に入らないというわけではなく、ひとつの場ですべてを得れる場を求める傾向にあります
利便性
顧客が直感的で使いやすく感じてもらえるかどうか。情報にアクセスしやすいかどうか、そして支払までのプロセスがシンプルに行えるかどうかがキーポイントになります
キャラクター
そのサイトが作り上げたいイメージや性格が表現できているかどうか。見た目だけでなく文字の使い方も影響します。人と人とのやりとりがない Web だからこそ人格が必要になるのでしょう

この記事では、8つの要素のうちどれが顧客ロイアリティを獲得するのに重要なのかまで研究しており、幾つかのEコマースを対象にして測定指標を築き分析を行っています。アンケートやアクセス解析だけでなく、Eメールキャンペーンの反応にも注目しロイアリティを数値化していきました。この結果で興味深いのは利便性が他の7要素に比べて重要ではないという結果になったところです。私たち Web デザイナーは、より使いやすく分かりやすいサイトを作ることを常に心がけているわけですが、顧客ロイアリティという視点からいうと、利便性がロイアリティに繋がることはほとんどないそうです。

では、どの要素が影響力が強いのかというと「ケア」と「キャラクター」だそうです。自分が大事にされているという感覚と、いい感じと思ってもらえるような演出が「また次使いたい」と思わせる要因ということになります。人のエモーショナルな部分と Web サイトが、何かしらの形で繋がったときにはじめてロイアリティが生まれるということが分かります。これはEコマースだけに言えることだけでなく、友達関係を築くときにも変わらないです。一種の普遍的な部分かもしれません。

ユーザリビティが重要ではないといっているわけではありません。ここで話しているのはロイアリティを獲得するという範囲での話なので、題目によっては使いやすさの重要度は増します。しかし利便性よりプラオリティが高いものが時にはあるということでしょう。人は多少使い難くても、ゆっくり自分のペースで進むことが出来ますし、何度か使っていたら慣れていきます。しかし、利用者が自分のペースで操作しているのにエラーメッセージや行き止まりを作っていたとしたらどうでしょう?素っ気ない雰囲気や、ミスを利用者に押し付ているような言葉を発していたらどうなるでしょう?それでは別の Web サイトへ行ってしまうかもしれませんし、たとえナビゲーションが素晴らしく情報が整理されていたとしても「使い難い」という言葉を発して去ってしまうかもしれません。

実はGoogle のデザインガイドライン10項目にも、キャラクター (人柄) という言葉が含まれています。「もしかして○○ですか?」のような口語的表現を加えるだけでも Google という検索エンジンに人間味が増します。そこが Google と私たち利用者をより一層近くしている要因といえるでしょう。また、私たちがタイプミスをして入力したものに対しても「もしかして○○ですか?」と尋ねてくるのは、さりげないケアと捉えることが出来ます。これはライティングを通したデザインだけでなく、バックエンドのデザインがあってこそといえるでしょう。技術とビジュアルが融合してそれが今までにないケアや人柄を作ることができるのが Web デザインのおもしろいところです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。