UXライティングとコンテンツ戦略の密接な関係
ライティングを直しているだけだと負債の要因になりますし、工程・運用まで踏み込まなければ、組織全体で改善していこうという動きになかなかなりません。
設計と運用を考えるなら戦略は必須
コンテンツがユーザー体験そのものであると昔から言われ続けていますが、コンテンツが後回しになることがよくあります。Web サイト制作のワークフローで、コンテンツ制作が後工程にあることが少なくありません。また、CMS が広く使われてることによって「コンテンツを流し込む」といった表現が生まれ、コンテンツは後で考えても良い風潮が生まれてしまったかもしれません。
エディトリアルデザインのようにコンテンツから考えなければデザインできないという考え方は昔からありましたが、web サイトデザインではコンテンツを考えず、「無難に何でも入る箱作り」になってしまった部分はあると思います。
改めてコンテンツから考えるワークフローと運用体制を作っていこうとしたのが コンテンツ戦略(コンテンツストラテジー)という考え方。コンテンツ戦略とは、与えられたリソースのなかでコンテンツの設計、制作、工程、運用をどうしていくかプランを立てることを指します。
コンテンツ戦略を説明するときによく用いられる図(参照)
体系化されて 10 年くらい経ちますが、当時 web サイトの運用にかけるリソースが日本と欧米とで 10 倍くらい違っていたので、わざわざ戦略を立てて内製化していくのは極めて困難でした。また、コンテンツインベントリーのようなツールを用いて情報整理や公開までのワークフローを見直すという進め方が、「web サイトを作って欲しい」というニーズとうまくマッチしなかったのかもしれません。
※「日本と欧米とで 10 倍くらい違っていた」というのは、私が当時欧米で活躍していたコンテンツストラテジストと話をしたときの感想で正確な数値ではないです。
※※ 今すぐにコンテンツ戦略を日本語で学びたい方は、書籍「今すぐ現場で使える コンテンツ ストラテジー 」がお勧めです。
コンテンツ戦略がUXライティングの質を上げる
10年前と今で違うのは、スタートアップをはじめアプリ / サービスドリブンで成長している組織の数が多いこと。Web サイトも含め、可能な限り内製していこうという考え方が広まっているところも昔と違うところです。しかし「コンテンツが置き去りになりがち」という状況はあまり変わっていないかもしれません。
1, 2 年前から耳にする「UX Writing(UX ライティング)」。Dropbox が専門職をつくったことが話題になって、広く知られるようになったと思います。10 年前からある「見た目から先に考えてしまって、コンテンツが十分に考慮されていない問題」は、アプリをはじめとしたデジタルプロダクトでも深刻な課題です。
5 年くらい前から UI デザインでも マイクロコピー(microcopy)は重要であると言われ続けていますが、デザイナーが片手間でできるほど楽なことではありません。扱っているアプリも複雑になっていますが、LP やヘルプページなどプロダクト以外の影響もあります。
コピーライティングの一部ではありますが、読み手を魅了させたり、感情に響くメッセージを届けるマーケィングコピーとは異なります。プロダクトで使われるコピーはユーザーが迷わず次の操作ができるように促すものが多く、透明な存在に近いかもしれません。重なる部分はありますが、プロダクトに特化した UX ライティングならではのノウハウやスキルが必要になるでしょう。
どこまでやるかは現場次第ですが、徐々に上階層の課題に取り組むことになる
UX ライティングのようにプロダクトに軸を置いてコピーやラベルが書ける人材が必要ですが、『良い感じのエラーメッセージを書く』だけだと部分最適化に過ぎません。ひとつひとつ直しているだけだと負債の要因になりますし、工程・運用まで踏み込まなければ、組織全体で改善していこうという動きになかなかなりません。
UX ライティングはプロダクト周辺の言葉に留まるかもしれませんが、UX ライターの仕事はコンテンツ戦略でやるべきことと極めて近くなると思います。以下の課題に取り組まなければ、中長期的なライティング改善は難しくなります。
- 今なぜそのライティングのままで公開されているのか
- 誰がそれを書いたのか
- どういう承認フローでそうなったのか
- 何を基準にして、そのライティングが『良い』となったのか
- プロダクトに記載されるライティングはどのように管理されているのか
- 更新した際の影響範囲はどれくらいか
- 今のが良くないと感じるのは何を基準にしているのか
ユーザーリサーチもそうですが、リサーチャーと呼ばれている方達はただひたすらインタビューや分析をしているのではなく、運用・管理をどうするかといった体制作りにも取り組んでいます。UX ライティングも同じ道を歩むことになるはずです。
「こんなコピーっていいよねぇ」といったインスピレーションからプロダクトのライティングがどうあるべきか興味をもつことは素晴らしい最初のステップです。ちょっとした工夫のためのライティングではなく、組織でライティングの質を上げていくための取り組みに興味を持ち始めたのであれば、コンテンツ戦略について学ぶことをお勧めします。