デザインの決定に役立つビジョンの共有
9月24日 Samurai Startup Island で、久々に短めのプレゼンをしました。トピックは UX という広く浅いテーマということもあり、最初は登壇をお断りしようと思っていました。しかし、スタートアップとして奮闘している人たちと今まであまり接点がなく、他の登壇者の話に興味があったので、参加を決めました。参加者からの質問がたくさん出たパネルディスカッションも含め、よいイベントだったと思います。
作れば良いという時代ではない
昨年「スタートアップとデザインについて」という記事を執筆しました。当時と今では、状況は少し異なるところがあります。国内外問わず、インタラクションデザイン、インターフェイスデザインの質は向上していますし、そこへの投資(時間とお金)をしなければならないという認識も高まっています。
しかし、良いと思われるデザインを『導入』すれば品質向上につながるという誤解は未だに強く残っています。
スタートアップに限ったことではないですが、モノを作る人は、ついつい『なに』に注目しがちです。インターフェイスも、プログラミングも作ることが仕事です。それ故、形作るところに価値が集中してしまいがち。だから、UI デザインの話も「どういう見た目が良いのか」「どう作ればいいのか」という「なに」に関わる話が多くなります。スタートアップも新しいアプリやサービスを作るわけなので、「なに」の優先順位が高くなることがあります。
今回は「Before UX: UXを導入せずに済む方法」と題して、UX をはじめとした話題の言葉に翻弄される前にやるべきことを紹介。作る人がついつい注目してしまう「なに」ではなく、「なぜ」を考えようという話をしました。
ビジョンというニュアンスの共有
上図はスライドの一部を抜粋したものです。
ビジョンがあれば、そのサービス・アプリで必要な UX の基礎を作り出せます。そして、UX は良い UI (又は他の要素)を導き出すヒントを与えてくれます。このクリエイティブの経路は一方通行で、逆に進むことはできません。つまり、良い UI を実装すれば、UX になるわけではありませんし、ビジョンなしでサービス・アプリの UX は担保できません。プレゼンでは、逆方向は成立しないことを例を挙げて解説しました。
スタートアップであれば、当然ビジョンがあります。しかし、そのビジョンがチーム内でシンプルかつ、感覚的なところまで共有されていない場合があります。特に日本語は曖昧な表現を得意とするので、いろいろな意味が混在しがちです。
「私たちはかっこ良くて使いやすいアプリを作るんだ」という言葉。
シンプルに見えますが、受け取り側の感性・経験で大きく異なる表現です。私たちは同じモノ・コトを見ているにも関わらず、受け取り方は千差万別です。つまり、ビジョンを仲間に伝えてあるから大丈夫と思っていても、異なるニュアンスで捉えている可能性もあり、あとになって大きな誤解に繋がることもあります。
自分たちにとっての「かっこい良い」「使いやすい」を共有しないままでは、どのデザインが適しているのかを決めることすらできません。言葉を意味を解体し、視覚化することで、言葉のニュアンスが共有しやすくなります。
再度「なぜ」と問い、その答えとなるビジョンを仲間と共有することが、UX や UI のことを考えることより重要だと思います。プロセスがないデザインは、どこまでいってもただの装飾です。プロセスの第一歩を踏むためにビジョン設計は欠かせないステップです。
プレゼンのタイトルについて
今回は「UXを導入せずに …」という香ばしいサブタイトルが付いていますが、これにはいろいろな意味があります。参加者には伝わっていると願っていますが、メモ程度に。
- そもそも UX を導入するということ自体ありえない
- ビジョンなしで、さぁ UX だ、UI だと考えはじめても、良い結果は生まれない
- では「UX を導入する」という言葉を使う人は間違っているのかというとそうではない
- 彼等がその言葉を使う意図やニュアンスをつかみ取り、共有することのほうが重要
- UXの定義や言葉の使い方が合っている間違っていると議論することは時間の無駄
- 定義の仕方、例え方は、アカデミックなものから感覚的なものまで様々
- チームで分かり合える「コトバ」と定義を見つけることが先決
- そのあと UX のような言葉に目を向けると、随分印象が変わるでしょう
上の絵、「U」が先に見えましたか? それとも「X」が先ですか?人によって先に見えてくる英単語が異なります。同じものを見ていても、見え方は人それぞれ。